第90話
【公爵令嬢誘拐事件】。
チェルダー伯爵の妻にして今回の事件の首謀者、ライラ・ウェルティエシアを乗せた船は積み荷の爆発物が誤って爆発し、船、そして有事の際に使用する脱出用ボートもろとも激しい爆発により跡形もなく吹き飛んだ。
この事件は女性ながらも公爵令嬢にかつての想い人の人影を重ね、恋慕の情を抱いたライラ夫人が令嬢を我が物にするべく闇ギルド、また闇市の人間に協力を仰ぎ、令嬢を誘拐する計画だったことが王室警備隊の調べにより発覚。
遺体の損傷はひどいものの、公爵令嬢であるアリステラ・クラウドライン、そしてライラ・ウェルテンシアの遺体が引き上げられ、その他にも数名遺体が王室警備隊により引き上げられた。
事件は夜に起きたことだが、3番街にてイベントが催されていたこともあり船の爆発により上がる黒煙を見たものは多く、イベントに対し警戒をしていた王室警備隊の人間は事件を目の前で目の当たりにしたそうだ。
また、事件を起こしたライラ・ウェルティエシアはこれまで数多くの魔導具を作りあげてきた魔導師であったことも判明。
近々3番街の商店などを対象に一斉魔導具調査が入るそうでーーーーーー
と、書かれた新聞記事に目を通す私、アリステラクラウドライン。
この記事に書いてある事件から一夜が明けた今、私はドレッドの闇ギルドにて昨晩の事が書かれた記事に目を通していた。
「えっと、つまり私とライラ夫人は社会的には死んだことになった……ってことでいいんだよね?」
記事に書かれている私とライラ夫人の遺体が引き上げられたと記載のある文章から私の考えを口にする。
すると私と対面して座るドレッドは小さく頷いた。
「この記事は王室の印がある記事、つまりは王室が公表したとも取れる文だ。ライラ夫人に加担する人物もライラ夫人が死んだと思わざる得ないだろうな。」
ドレッドはそういうと静かに自分の隣に座る人物に視線を移す。
その人物は他でもない、ルイスだった。
(正直、ルイスのシナリオ通り過ぎて関心通り越してちょっと怖いくらい……。)
昨晩、私はドレッドと小舟に向かった。
そしてその小舟を爆発させ、更にその爆発をルイスとルイスの知り合いの王室警備隊の人間により誘導されていた王室警備隊の隊員たちに目撃させ、小舟に乗っていた人物が小舟もろとも爆散。
更にライラ夫人の魔導人形の乗っていた船も爆発の後沈没していて、生存者がいないような事故を演出した。
もちろん死傷者は出ていないはず。
ドレッドの予想通りルイスは瞬間移動の能力の持ち主で演出用の小舟を海に漂わせた後、私とドレッドは爆発する手はずになっていた部屋から遠い部屋へと避難した。
もちろんそこはルイスに指定された場所で、ライラ夫人の船でも爆発が起き、ひどく揺れた後すぐにルイスは私とドレッドを迎えに来てくれた。
で、そのまま闇ギルドに瞬間移動してきて今に至る、というわけだ。
ちなみに爆散された小舟にはちゃんと人が乗っていたことを誰かに見てもらわないといけなかったため私だと特定できる家紋入りのペンダントを付けた偽造された人形が乗っていた。
上手くペンダントをルイスの知り合いが拾い上げ、私が死んだと王室警備隊の人間たちに認識させ、被害者はアリステラ・クラウドラインと判明し、ルイスの手により捕まった奴隷商などに爆発で沈んだ船の持ち主、そしてアリステラ・クラウドラインを狙っていた人物を聞き出し、犯人を後にしたいが上がってきたライラ・ウェルティエシアと定めさせた。
もちろんこの間の夜会のように魔導人形に致命的な損傷を与えれば爆発する。
死体は私の偽造した死体同様、偽造したものを発見してもらったというわけだ。
(私は【とりあえず正体を明かしまくってドレッドとルイスの合流を待つ】が任務だったから難しいところをすべて説明されていたわけじゃないけど、改めて事のすべてをおさらいするとよく成功したなって作戦だよね。)
そもそも一番の問題は小舟が爆発したことをライラ夫人が疑問に思わなければある意味今回の作戦は世間的にうまくいっても目的を達成させるには少し足りない内容。
だけどルイス曰くその点はうまく騙せてると思うとのこと。
表向きにはライラ夫人は死者となって、ライラ夫人とつてのある闇ギルド、商人たちにさえ彼女は容易に接触できないだろうとルイスは言う。
王室が死んだと公表した人間が生きている場合、能力者と推測される。
そしてライラ夫人の場合は相手が魔導士という事を信じていなかったとしても生存の事実が魔導士である裏付けになってしまう。
世間的に嫌われ者の魔導士とばれていいことは何もないのと、思い人を失ったショックからしばらくはおとなしくしているだろうとのことだ。
で、私はほとぼりが冷めるまでこれから――――――
「まぁ、これでアリスは社会的に死んだわけだから、これからはとある貴族に預けられて一時的に闇ギルドで諜報活動を学ぶ「テイラー」としてドレッドの仕事を手伝いつつ、生活してね。」
にっこりと笑みを浮かべながら私のこれからについて語るルイス。
そんなルイスの言葉通り、これから私は闇ギルドの一員として身を隠しつつも情報提供などでルイスの助手として働く日常が始まるのだった。
もちろんこれはもとより聞かされていた内容で、ルイスがノウスに説明していた「信頼できる知人」というのがほかでもなくドレッドのことだった。
ちなみに私はルイスの言った通りとある貴族に諜報で使えるように訓練ををしてくれと頼まれ、一時的な闇ギルドメンバーとなった「男」という設定でここにとどまる。
つまりは仕事時の男装をしばらくは続けるという事だ。
ちなみに今も現在進行形で男装をしている。
ただ、流石にルイスの用意してくれた露出の多い服じゃなくて安全性と闇にまぎれることを考慮した闇ギルド員の制服みたいな服装を身にまとっていることがいつもの格好と違うところ。
……実はこの制服が割とかっこいいと思っている自分がいたりする。
が、正直な話をするとできれば今後の身の振り方は別の過ごし方を希望していた。
もちろんこの作戦に不満はない。
まさか令嬢が闇ギルド構成員として身を隠しているなんて誰が思うだろうか。
良い作戦だと正直に思う。
が、本当に、本当に正直な話をすると――――――
「あの、ルイス?本当にルイスの家で隠れて過ごすのじゃダメ?」
ルイスの家で匿われたい。
なんて思いながら一抹の希望を胸にルイスに問いかけるとルイスはにっこりとほほ笑んだ。
「絶対駄目。」
にっこり笑顔で完全拒絶。
私はそれ以上何も言えなくなった。
「アリス、これは君の為なんだよ?理解できるよね?」
「……はい。」
ルイスに念を押されるように言われ、私は静かに返答する。
何をどうしても変わらなさそうなルイスの考えに私は問いかけることをやめ、闇ギルドの見習い構成員兼客人として闇ギルドに身を置くこととなったのだった。
 




