第84話
夜を楽しむなら3番街。
街の人からそういわれるだけあって3番街はもう夜も遅いというのにひどく明るく、にぎわっている。
そんな中おめかしした私とドレッドは目立つように歩いていた。
(目立ってる……目立ってるね、ドレッド……。)
目立つようにと言ってもその理由のほとんどはドレッドと言っても過言じゃない。
私の支度の後、ドレッドも作戦の為にめかしこんでいた。
セクシーだけど気品のあるドレスを身にまとったドレッド。
そんなドレッドが街中を歩くと当たり前のごとくドレッドの魅力に近くにいる男の人の視線を集めてやまない。
そのついでに私もまぁ……多分目立っている。
「…………なんか新鮮だな。」
「……え?」
突然ぼそりとドレッドが言葉をこぼした。
新鮮。
一体何がどう新鮮なのだろうと首をかしげているとドレッドは私の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「目線が違うと世界が変わるって話だ。高い位置から見下ろしているとお前って小動物って感じがすごいけど、目線が近くなるとちゃんと人間に見えるんだなって。」
「…………私、人間に思われてなかったの?」
あまりにも予想外な発言に私は恐る恐る言葉を返した。
そんな私を見てくすくす笑うドレッド。
新鮮と言えば私も新鮮だ。
(中身はドレッドなことはさておいて、女の子とこうやって歩くのってなんかいいな。)
こんな状況じゃなかったら純粋に楽しめたのに。
なんて思う。
(あと腕にドレッドの胸が当たってなんか気持ちいい……。)
考えていることがおっさんだなぁと自分でも思うけどこればかりは仕方ない。
無いものには憧れるし焦がれてしまうものだ。
……というか……。
「ドレッド、ずっと女の子でいればいいのに。」
BLゲームの世界でこんなことを言うのはあれだけど、ヴァルドは多分、現状は普通に女の子が好きなんじゃないかなって思う。
もしドレッドが女の子だったら、私なんかじゃなくてドレッドをちゃんと好きになっていたんじゃないかって思う。
そうすれば私も、ヴァルドについて悩まなくて済んだのに……。
「……かりに俺が女だったとしても何も変わらないと思うぞ。お前との関係性も、そしてヴァルドとの関係性も……ヴァルドがお前を好きなこともな。」
「…………え?」
何気なくこぼした言葉に予想外にまじめな声で真面目な言葉が返ってきた。
そしてその言葉の内容に私は驚かずにはいられなかった。
「……ヴァルドが私を好きって知ってたの?」
告白されたことは……いうのが怖くて言っていない。
だから知っているなんて知らなかった。
流石に屋敷内で告白されたし、別に情報集めを得意としていてもそういうたぐいの探りを入れたりしないだろうしと、勝手にばれていないと思っていた。
……ヴァルドとの仲を聞いたりしていた手前、そんなことを言っていた私がヴァルドになんて……ドレッドがこの件についてどう思っているのか聞くのが怖い。
「なんで人間って自分の事になると視野が狭くなるんだろうな。以前話した俺が裏社会に戻るきっかけになったヴァルドとの件、あっただろ?あの頃にはすでにあいつの頭の中はお前の事でいっぱいだったと思うぞ。」
「……え、さすがにそれは……。」
恐らく以前ドレッドの話を聞いた感じ、当時のヴァルドは随分子供だったと思われる。
そんな時から好きだのなんだのなんて、自覚するものなのだろうか?
(家族として大事、とかはわかるけど……。)
納得できない気持ちを納得したくない気持ちが増長させる。
「だからあいつが大事にしてるお前をめちゃくちゃに壊してやったらあいつも全力で俺にぶつかってくるんじゃないかと思っていた時期があったぐらいだ。……まぁ、今はそんなこと考えてないから安心しろ。」
「う、うん。友達なのに今もその気があったら泣くからね?」
ドレッドに殺される未来ぐらいは回避できている。
そう思っている私への裏切りを恐れながら問いかけるとドレッドは小さく笑った。
そして私に目配せをして目的地に到着したことを教えてくれた。
目的地。
それは「バルーン・マジック」の会場の外にある特設酒場だった。
ルイス曰く、この特設酒場は出会い目的やワンナイト目的に使われるらしい。
で、私は友人に連れられてやってきた世間知らずのお嬢様という設定で身分を馬鹿みたいにばらし、私がどこの誰なのかを明かすという作戦だ。
後はこんな後ろめたい人たちの集まる場所だ。
勝手に行動に移ってくれるだろうということだ。
そしておそらく動くなら闇ギルドではないだろうというルイスの予想。
更に予想通りなら私は危害を加えられることなくライラ夫人の元へと連れていかれるであろうというルイスの推測だ。
どれか一つでも狂えばとんでもないことが起きかねない作戦。
その作戦を成功させるためにもドレッドは女装で同行しているというわけだ。
何もドレッドは私が身分を明かすための芝居を打つために来たわけじゃない。
もしもの時の護衛、みたいな感じらしい。
けど……――――――
「ねぇちゃん、随分と別嬪だなぁ。男の一人や二人いそうな顔だぜ。」
「なんだ?浮気相手でも探してるのかぁ?悪いねぇちゃんだなぁ!」
酔っ払いの視線を一人で集め、一人で絡まれている護衛のはずのドレッド。
間違いなく護衛が必要な人間が違う……。
私はひどく蚊帳の外で作戦でなければ今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいにさせられるのだった。




