第78話
「どうぞ、適当に腰を掛けて。」
ノウスに話の続きを求められたルイスは本当に往来では話せない話をするつもりだったのだろう。
私たちを雑貨屋の二階、つまりルイスの部屋に連れてきた。
(まぁ、どこでライラ夫人の人形だったり人形に惑わされた人が聞いてるかわからないんだもんね……。)
なんかいろいろありすぎて頭から抜け落ちていたライラ夫人の情報がよみがえってくる。
警戒に警戒を重ねるなら間違いなくここが一番安全だと思う。
何せ若くして闇ギルドのギルド長であるドレッドがよく足を運んでいる場所だ。
盗聴などの類の異変をこの家に覚えたならばすぐ対処もされていると思う。
そしてそんな安全な場所で行われる作戦会議。
一体どんな内容なのだろうと胸をざわつかせているとルイスがお茶を出してくれた後、とんでもない作戦を口にした。
「アリスの安全のためにもアリスを一度、表向きに殺そうと思うんだ。」
真剣な声と表情で紡がれるルイスのとんでもない発言。
その言葉に私とファウスは呆然とするけれど、ノウスはまじめな顔で「それで?」と作戦の詳細を求めた。
……だてにヴァンお兄様のサポートをしているわけじゃないという事なのだろうか。
今ここにヴァンお兄様がいるんじゃないかと思えるくらいひどく冷静に思考を巡らせているように見えてきた。
「作戦の内容はこう。アリスとノウス君……でいいかな、呼び方。君も気さくに話しかけてくれてるし。そっちのローブの君もファウス君って呼んでも平気?」
ルイスもノウスもお互いヴァンお兄様も含め3人で話した時とは違い、仰々しさのない話し方をしていることもあってか提案される呼び方。
今別に重要な話ではないと思われるこの会話だけどおそらく危険な作戦を共有する相手としてある程度距離を詰めておきたいという意味なのだと思う。
そしてそんなルイスの意図を組んでかどうかわからないけれどノウスもファウスも了承して見せた。
「じゃあ改めて作戦を話すね。アリスとノウス君、そしてファウス君はまずこの後ファウス君のお父様を迎えに言った後、公爵家に適当な理由をつけて連れて帰ってもらう。そしてアリスはこっそり屋敷の隠し通路を通って屋敷の外に出てきて。そこに――――」
「――――――俺が迎えに行ってあげるからさ、アリス。」
ルイスが作戦を話していると突然、扉の方から声が聞こえた。
その声の主はドレッドだった。
ドレッドは余所行きの仮面《表情》をはりつけ、私たちに手を振ってきた。
その様子にファウスもノウスもひどく驚く。
そんな二人の反応を楽しそうに見ながらドレッドは私たちの座るテーブルに近づいてきた。
……というか――――――
(え……?なんとなく作戦に関与してくることは察してたけどそれをノウスとファウスに明かしていいの!?)
闇ギルドのギルド長という事実はヴァルドしか知らない事実だ。
だからここでのドレッドの登場は本当に困惑でしかないはずなのに。
そう思っているとドレッドが口を開いた。
「実は俺、ルイスさんの助手をしてるんだ。だから今回の作戦でも一役買わせてもらうからよろしくね、ノウスさん、ファウスさん。」
胡散臭い笑みを浮かべながら手を振るドレッド。
作戦関与のうまい理由というか、違和感のない理由を考えたものだ。
そして――――――
(多分ばらしたってことは何かしらドレッドがノウスやファウスに接触しなきゃいけなくなるってことなのかな……?)
思っているよりも作戦は大がかりなものになりそうな予感がしてきた。
「作戦の続きを話すね。アリスはドレッドの護衛の下、ココに戻ってきて。そして知り合いに死体を偽装できる人がいるからその人に偽装してもらい、まるで何かの事件に巻き込まれたようにアリステラの死体をでっちあげる。そして事が収まるまでアリステラを僕の信頼できる友人の元に匿っておくっていうのが作戦かな。そして匿ってる際、ファウス君はともかくノウス君はアリスの状況を聞きたいでしょ?僕が接触するとライラ夫人に違和感を覚えられることもあるだろうから日頃から割とノウス君に接触することもあるドレッドに状況報告役を担ってもらおうってことなんだ。」
思ったより割と完結に作戦を話してくれるルイス。
そしてドレッドの正体を明かさなければいけない理由もその作戦で理解できた。
多分、ちょっと信頼できる友人の元に匿うっていうのはどこに匿われるのか想像できないけど……この言い方をするってことはここでは匿ってもらえないのだろうか。
と、馬鹿みたいにのんきなことを考えていると真剣な声でノウスが言葉を紡ぎ始めた。
「それ、アリステラに危険はないのか?」
兄の顔。
そういうにふさわしいと思えるような表情で問いかけるノウス。
そんなノウスにルイスは軽く笑みを浮かべながら言葉を返した。
「絶対、というものは世の中に存在しない。だから僕は「絶対」と断言はしない。でもね、これは今ある問題をある意味すべて解決できる案だと思うんだ。正直言ってライラ夫人はアリスと直接対話したことで欲望を抑えきれなくなってきている。こんな作戦でも取って早期解決を図らない限り、アリスへの危険度は日に日に増していくと思うんだ。」
ゆっくり柔らかな言葉で口元に余裕の笑みを浮かべながら話すルイス。
そんなルイスの態度にはこの作戦における心配が少ないように感じられる。
そしてルイスもそれが狙いなのだということはなんとなく理解できた。
さらに私の危険度についてもルイスの推測通りだと私も思う。
忘れた頃にではなく間髪入れずに行動してくるあたり、早めにどうにかしないといつ何が起きてもおかしくなくなると思う。
特に時間がたてばたつほど現段階で私についての情報を知らないライラ夫人側の人間が私についての情報を集めてしまうかもしれない。
そうなれば言うまでもなく危険度は増すからだ。
「悪いけど時間がないからゆっくり考えてって言えない。ノウス君、早急に決めてもらえるかな?君はこの作戦を受け入れる気はある?」
現在はもう昼を過ぎ、夕方に差し掛かってきている。
遅くなればなるほどファウスの父を迎えに行き、公爵家に帰ること自体が難しくなる。
その為決断を急ぐルイスにノウスは静かに言葉を返すのだった。




