第77話
「ライラ夫人か……あまりにもおかしいと思ってずいぶん昔から警戒はしていたけどまさかそこまでだとはな……。」
ルイスの予想を聞き頭を抱えるノウス。
「ずいぶん昔から」という言葉が引っかかりノウスを見つめているとノウスに大きなため息を吐かれながら頭をたたかれた。
「言っても今更だけどそもそもお前もおかしいと思え。社交界断ってるのを知ってて使用人がお前の部屋に招待状持っていくわけがないだろう。」
「…………え?」
呆れた声で私の頭をたたきながら紡がれる言葉。
その言葉の意味が解らず私は目を丸くする。
そんな明らかに伝わってない状況を理解したのか、ノウスはわかりやすく説明をし直してくれる。
「つまり誰かが買収されてお前に招待状を届けたか、ライラ夫人が何らかの手を使ってお前の部屋に直接届けてたってことだよ。あの女は昔からお前を変な目で見てたからな。特に警戒して「絶対にライラ夫人の招待状は捨てろ」ってヴァン兄が命令出してたぐらいだしな。」
「そ、そんなに警戒してる人物の夜会、本当なんで許可したの……?」
「いや、勝手に返事だしたのお前。」
聞けば聞くほどやばい人なライラ夫人。
そんなライラ夫人に恐怖を感じてついつい尋ねると本当、すべての原因が自分に合ったことを思い出させられる。
そう、招待状に返事をしたら基本的に滅多なことがない限り顔を出さなくてはならない。
冠婚葬祭と王族からの呼び出し、重度の体調不良以外。
聞けばそんな予定がなかった上、私を止めることも憚られ、どのみちもう私の参加を取り消す方法がなかった為ヴァルドたちが同行を決めてくれたという事らしい。
本当、私は何でもかんでも一人で決めて一人で勝手に行動しすぎていたのだと深く反省せざるを得ない……。
「で、問題はこれからどうするかだな。ファウスはとりあえずうちで匿うか?アリステラを連れていかなきゃお前が連れていかれるってことでいいんだよな?」
ずっとノウスの後ろに隠れて話を聞いていたファウスはノウスに問いかけられ、静かに頷く。
だけどことはきっと単純な事じゃない。
だって、ここにいるのはファウス一人だ。
(私の口からは言えないけどファウスのお父様は多額の借金を作り、心を病んで要介護の人だった。今でこそファウスにおんぶにだっこ状態だけど昔はすごい人で、優しくて、ファウスにとって自慢で大好きなお父様だというシナリオを見たことがある。だからきっと……――――――)
「あの、ノウス。気持ちはうれしいけど一緒にはいけない。父さんを放ってはいけない。今、知り合いの家に匿ってもらってるから。」
思った通りだ。
父親が気がかりなファウスはノウスの提案を断った。
ファウスの性格上父親もとは言えないだろう。
ならば父親も一緒にとノウスはいうけれどファウスは首を横に振る。
恐らくファウスの父はあの男の仲間に既に監視されているのだと思う。
そして父親まで公爵家に連れていけばきっと、面倒ごとが起きるのは目に見えている。
それがファウスが提案を拒む理由だと思う。
「……一つ提案してもいいかな。ファウス君、君はノウス君の提案通りお父様と公爵家に匿ってもらうのがいいと思うんだ。」
どうすることが最善か。
誰もがそう頭を悩ませていた時ルイスが言葉を発した。
けれど面倒ごとが起きることが目に見えているためそうできないという話になったというのにその提案を持ち出すルイスにファウスは意見を返した。
「あ、あんたは自分の言っていること、わかってるのか?そんなことをすればアリステラが巻き込まれるかもしれないんだぞっ……!?」
ファウスはひどく青ざめた表情、そして自分より背丈の小さいルイスに対しては少し気が大きくなっているのか割と大きな声で荒々し気に言葉を返した。
私の事が嫌いな上に怖いと思っているというのに必死に私を巻き込まないよう考えてくれるファウス。
嫌われている相手に言う言葉ではないけれどだから彼が憎めない。
本当、人を呪ってくるような人に使う言葉じゃないけど、彼は自分の目的のためにはだれが犠牲になっても構わないって人じゃない。
多分、私に呪いが効かないこともある程度知っていてやり場のない気持ちを呪いで発散していたのだとも思わなくない。
決してそれは褒められた行為ではないけど、もし私に呪いが効いたとしても命に関わるような呪いはかけてきたりしないと思う。
……ノウスと兄妹間で付き合いでもしない限りだけど。
とにもかくにも私はなんだかんだ私を思ってくれるファウスにひどく感動していた。
だけどきっとルイスだって考えがあって提案したはず。
そう思ってルイスを見るとルイスはいつものように素敵な笑顔を浮かべてから考えを口にした。
「大丈夫、もちろんアリスの事は考えてるよ。というかね、アリスの為にも提案した事なんだよ。ちょ~っとやばい作戦口にするけど……聞いてくれる?」
ルイスは笑みを浮かべながらもどこか物静かに言葉を言葉を紡ぐ。
そう、不敵な笑みを浮かべながらまるで内緒話でも始めるかのように。
そんなルイスの言葉に私たちは息をのんだ。
そして、ノウスが意を決したように「聞かせてくれ。」と言葉を返したのだった。




