第74話
飲み物の買い出しから戻ったノウスは私からファウスの身柄を保護し、ファウスと私にそれぞれ飲み物をくれた。
だけどノウスの分の飲み物がなく、それに気づいたファウスが遠慮するもののノウスは「俺はコイツと一緒に飲むからいいよ。」と言って私の頭を軽く叩く。
別に兄妹で間接キスなんて気にしないからいいんだけど、そんなノウスの発言で私におびえているはずのファウスの視線が痛い。
とはいえ何時もなら今すぐにでも呪われていそうだけど、私の実力やらなにやらがよっぽど恐ろしかったのだろう。
私と目が合うとその鋭い視線はすぐにはずされ、勢いよく目をそらされた。
「……で、あの男たちは何だったんだ?」
ノウスを挟んで私と路地においてある木箱に腰を掛けるファウス。
ノウスの質問を受けて私にひどくおびえているファウスが恐る恐る伺うように私を見てきた。
そして、また体を震わせ、ノウスの服を指でつまみ、力を込めて意
を決したように話し始めた。
「闇市の商品にするために「攫う」って、言ってた……。」
ファウスの言葉を受け、ノウスが大きなため息をついた。
そして困ったような表情で私を見てきた。
「誘拐」。
私がさっきとっさに発してしまったワードにより私が何故ファウスの置かれている状況を察することができたのかひどく疑問に思っているけれど聞いていいのかわからないといった表情だ。
出来れば当面の家族間の問題はどこかの誰かさんとの問題はさておき、兄弟間の壁を取り除くこと。
お互い言いたいことを気兼ねなく言い合い、聞ける関係が理想だけど……
申し訳ないがこれに関しては本当、聞かないでほしい。
というか説明できない。
けど、ここで何も言わなければ縮まりかけている私たちの距離はまた離れていってしまうかもしれない。
そう思うと話すのも怖いけど話さないのも怖い。
どう言い訳しよう、そう思った時だった。
「ねぇ……アリ……テラ……あんたは誰かの恨みでも勝ってるわけ……?」
ノウスの私への無言の問いかけがどうでもよくなるくらい訳の分からない質問がファウスの口からこぼれたのだった。
恐る恐るノウスの背に隠れるように怯えつつ、上目遣いで私に問いかけてくるファウス。
ファウスのイベントのはずなのに何故私の名前が出てくるのだろう。
私の記憶が正しければ父親がいつの間にかしていた多額の借金返済のために黒魔術で怪しげな薬を作らされていたファウスはそれが人を狂わす薬と知り、作りたくないと制作を拒んだことで「だったらお前を売った金で返済してもらうしかねぇな」と言われ、顔がかわいい系だという理由で闇市で奴隷として売られることになるイベントだ。
そしてある日突然いなくなったファウスの事を心配してノウスが街で聞き込みをしていると探偵であるルイスが「君のお友達の居場所を知ってるよ」とノウスに近づき、ノウスがルイスの情報提供の元闇市の会場に王室警備隊と共に乗り込み、囚われのノウスを助け出すというイベントだ。
私が生き残っていることで起きる変化なんてファウスの家庭事情に私がかかわっているはずもないのだからこのイベントではないはずだ。
なのにどうしてファウスは私の事を聞くのだろう。
……なんか嫌な予感がする。
そう思いながら首を横に振るとファウスはとても言いづらそうに静かに自分が聞いたことを話し始めてくれた。
「……あいつらに「アリステラ・クラウドラインを連れて来い。じゃないとお前を闇市で売り物にしてやる」って……いわれたんだ……。」
私の兄であり唯一親しい友人であるノウスに聞かせるのも躊躇われたのだと思う。
私たち二人から視線を外しながら恐る恐る口にされた言葉は私の嫌な予感を的中させる。
やっぱり。
そんな感じで受け止める私とは違ってひどく驚くノウス。
「どういう事だ、ファウスっ……!なんでアリステラの名前がそこで出てくるんだよ!」
驚くあまりファウスの肩を強くつかみ、勢い良く問いかけるノウス。
だけどそんなノウスの行動にファウスは驚き怯える。
「わ、悪い……。」
怯えるファウスを見て我を取り戻したのかノウスはファウスの肩から手を放し、ファウスと少し距離をとるノウス。
そしてノウスが少し落ち着きを取り戻した様子を確認すると――――――
「あいつらが言ってたんだ……。アリステラ・クラウドラインは今闇市のVIPが一番欲しがっている人間なんだって…………。」
ファウスが私の名前が出てきた理由を教えてくれた。
そのファウスの言葉に心当たりが欠片もなさ過ぎてあまりにも現実物を帯びない話に一蹴廻って他人事のようにさえ思えてきた私は冷静に理由を考える。
だけどそんな私を見るノウスの表情はひどく困惑していたのだった。




