第73話
「んじゃ俺は少し飲み物買ってくるから何かあったら頼むな、アリステラ。」
「は、はぁい……。」
私が戦えるし男たちを縛り上げられるしでただの女の子じゃないことを理解したからか3番街を3人で出た後、ノウスはファウスを私に預けて飲み物を買いに行った。
色々怪しまれた私はある意味嘘ではないので「知り合いが一人で出歩くなら知っておいて損はない」と護身術を教えてくれたと話した。
教わった理由はちょっと違うけど護身術を教えてもらっているのは嘘ではないわけだし、完全に嘘をついているわけじゃないからかノウスは納得してくれた。
そう、ノウスは納得してくれたけど……
「…………。」
私の隣で無言でうつむくファウスは未だに私におびえているのか震えている。
何時もなら隣でぶつぶつ私を呪ってくるのに令嬢らしからぬ戦闘力を持つ私に何かしようものなら反撃と称し、攻撃されると思ってか大人しい。
というか私、別にそんな暴力女じゃないのに。
「あ、あの、ファウス先輩……?」
あまりにも怯えられているのが居心地が悪く声をかける。
さっきとっさに呼び捨てで呼んだことを謝ろうかなぁなんて思いながら声をかけたのだけどそれはどうも失敗だったらしい。
声をかけたせいでひどく震えあがり、青ざめている顔がはっきりと見えてしまった。
(ただでさえ嫌われてるのにもっと嫌われたかも。)
なんだか少し悲しくなってくる。
でも私からの報復を恐れそうだし、呪いが今以上にひどくなるようなことはなさそうなのはちょっとだけよかったことかもしれない。
(まぁ無理に話すことはないか……居心地は最悪だけど。)
なんて思いながらファウスから視線を外す。
それから少し間が空いてからの事だった。
ファウスが突然私の服を指で掴んで引っ張ってきた。
「どうしました?」
何か用があるのかと思いファウスの方を見るとファウスはまたひどくおびえて見せる。
ファウスが根暗で対人恐怖症気味なのは知っているけど、流石に本当、この態度は悲しくなる。
まぁ根が悪い子じゃないのは知ってるから別に腹が立ったり特別嫌ったりとかはしないけど、流石にこんなに怯えられるのはどうにかならないものか。
そんなことを思っていた時だった。
「ア…アリ……テラ……、あり……が…とう……。」
指と声を震わせながら必死に言葉を紡ぐファウス。
まるでそれは人なれしていない子犬のような感じだった。
駄目だ、私はこういう、こういう母性をくすぐるキャラに弱い!!
「か、か、可愛い~~~~~!!!!」
あまりにも可愛すぎるそのキャラに抑えきれなくなったオタクの本能が気づいたらファウスに抱き着き、ファウスに頬ずりをしてしまう。
そんな私の行動に怯えながら固まるファウス。
そんな反応すら可愛くてよりいっそうファウスを抱きしめる腕に力がこもり始めたその時だった。
「こら、ファウスが嫌がってるからやめてやれ。」
なんて帰りが早い事だろう。
飲み物を買って帰ってきたノウスの肘に両手に持つ飲み物がこぼれない程度の腕の振り下ろし具合で軽く小突かれたのだった。




