第71話
白昼堂々下着の話題を口にする馬鹿な兄のせいでどことなく往来を歩くのが恥ずかしくなった私はまだ顔に熱が残っていることを感じながら少し人通りの少ないところにノウスの腕を引っ張り連れてきた。
ひとまず人目を避けたい。
そんな感情から気づけば少し怪しげな雰囲気のある3番街に来てしまっていた。
いや、なんていうか帰巣本能に近いものもあるのかもしれない。
ルイスとの仕事でよく3番街に来るため身をひそめて落ち着くならココと思ってしまったかもしれないとちょっと思う。
だけどここに無意識とはいえノウスを連れてきてしまったことはまずかったかもしれないとすぐに理解することになる。
「……なぁアリステラ、俺ってちゃんとお前のこと信じていいんだよな?」
(うっ……。)
私に手を引かれ、私の少し後ろを歩くノウスに少し不安そうに問いかけられたのだ。
少なくとも察しがいいノウスなら夜な夜な屋敷を抜け出して外出しているということは私は割と街について詳しいということは察しが付くだろう。
そしてそんな街に詳しい人間でまともな人間なら3番街には近寄らない。
だけどナチュラルにこの場に抵抗感もなく連れてきてしまったことでノウスに不信感を抱かせてしまったという事だ。
ここに来慣れている。
そのことが瞬時に予想されてしまった。
「だ、大丈夫。別に危ない人と付き合ったりしてるわけじゃないから。むしろ私が付き合ってる人は正義の味方というか――――――」
どう説明すれば安心して信じてくれるだろうか。
そんなことを思いながらどうにか探偵業や王室から秘密裏に請け負っている任務の事などをばらさずに説明するにはどうすればいいかを考え始めたその時だった。
私の視界に一瞬、人影が飛び込んでくる。
黒いローブをまとい、通り過ぎるその人物は間違いなくとある人物であることが想像できた。
それはゲームで何度も見たことのあるローブ、ファウスのローブをまとっていたからだ。
「ノウス、今ファウスがいた。」
「……は?いやいや、でも今あいつは学校にいるはずだろ?」
驚きながら言葉をぼそりとこぼす私に驚きの声を返してくるノウス。
(もしかしてノウスとファウスがそろったってことは何かのイベントと関係あるの?)
絶対そうというわけじゃないけどここは役者が二人そろえば何かが起きるのがお約束に近いゲームの世界。
もしかしてと頭を回転させてみると一つ、思い当たるイベントがあった。
「……誘拐イベントだ。」
「ん?誘拐?お前何言って――――――」
イベントが思い当たり言葉をこぼす私。
そんな私の言葉にノウスが訝し気な声をあげた次の瞬間だった。
今度は数人の男たちが私たちの視界を遮っていく。
男たちは全速力で何かを追いかけているような、そんな様子だった。
「……まさかっ!!」
何かを必死で追いかける男たち。
その男たちを目にしたこと、そして私が先程ファウスがいたといった事、それらからノウスはファウスが追いかけられていることを説明しなくても察してくれたらしい。
そして――――――
「アリステラ、今日は護衛おいてきてるからお前はさっきのカフェででも待っててくれ!!」
公爵家の人間はお忍びで出かけるときも護衛を秘密裏に同行させていたりする。
だけど何故かよりにもよって今日という日はそれがないというのももしかするとこのイベントの進行の為のご都合的展開なのかもしれない。
なんてことは正直、考えている場合じゃない。
(このイベントは別に死亡ルートないけど、危険な目に合わないわけじゃない。だから―――――)
私は走り出した。
待っていろと言われたカフェにではない、もちろんノウスの後を追いかけるために走り出したのだった。
危険な目に合うであろう兄たちの助けになりたい一心で――――――。




