第68話
「……ところでお前とドレッドが付き合ってるってのは本当の話なのか?」
「いや、それはない。」
二人とも視線と声のトーンを落としながら静かに会話をする。
その質問からヴァルドがドレッドの件で悩んでいたことを知っていたのが伺える。
……というかもしそうだったら……――――
「ヴァルドはノウスに私への気持ちがバレてること知ってたの?」
「まぁ、協力しない代わりに話は聞いてやってたからな。」
変わらず視線を落としながら言葉を交わす私たち。
というか本当にそんなことになってるとは思わなかった。
「……なんかさ、人生上手くいかないよな。」
「……え?」
静かにため息交じりで言葉を紡ぐノウス。
そんなノウスの言葉に反応するとノウスは空を仰ぎながら話し始めた。
「俺さ、お前と同距離を詰めていいかわからなくてあんまこみ入った話とかしてこなかったけどさ、それじゃだめだって思って、嫌われてもいいからどんどんいろんな話をしようって決めたところだったんだよ。でもさ……思わないだろ?決意の後一発目の話題がこれだってさ……。」
遠いところを見つめるような瞳であきれたように言葉を吐き捨てるノウス。
そんなノウスの言葉に少しだけ私は理解ができた。
私だってみんなとの壁を失くそうと思ったばかりなのにヴァルドには一層硬くて頑丈な壁を作ってしまった。
「……うまくいかないよね、人生って。」
私はノウスに同意する言葉を返した。
「私もね、みんなに壁があるって思わせてたってわかってそれをどうにかしたいなって思ってたんだ。だけど……」
自分の気持ちを語ってくれたノウスに同意だけを返すのは何か違うと思い、私も私が感じた事を口にした。
本当、思い通りにいかなすぎる。
「だぁぁもう!やめだやめ!!アリステラ、悪い、暗い雰囲気作った。なんかもういろいろうまくいかないけどさ、今日はお前ともっと互いの理解を深めたくて二人で出かけようって思ったんだ。いつもはファウスがいるだろ?あいつがいると俺は割とあいつ主体で動いてしまうからさ、二人で出かけたらもっとお前の好きなものや考えてること、わかるかもって思ったんだ。だからヴァルドの話はいったんやめて他の話しないか?」
突然大きな声をあげたかと思うといつもひどく明るいノウスはひどく落ちていたテンションを無理やり揚げ、何時も通りのふるまいを見せてくれる。
いろいろうまくいかなくてもまずは自分たちからでももっと互いの距離を縮めようというノウスの提案に私は少しだけ元気が出てきた。
そして私はノウスに笑顔で「うん。」と同意を返す。
いろいろうまくいかないけど何もできないわけじゃない。
できることからやっていこう。
すぐに兄弟全員との距離が縮められなくても少しずつ、少しずつ。
そう思い私は一旦ヴァルドの事は頭の隅にどうにか追いやり、ノウスとのお出かけを楽しむことを決めるのだった。




