第67話
「よーし、今日はうまいもん食って、いっぱい買い物しようぜ!アリステラ!!」
半ば無理やり屋敷から連れ出された私。
私が足腰を痛めていると聞いて動きやすく窮屈感のない街娘風な服装で準備をしてくれた侍女たち。
そのおかげかこの時間から私ぐらいの年の子が出歩いていても特に注目されない。
学園に通えるのは貴族と才能ある平民だけ。
つまりは魔法の才がない場合は普通に私ぐらいの年の子も仕事したり、家族と過ごしたりと様々な生活スタイルの世の中だからだ。
もちろん服装は私だけが街娘風なわけじゃない。
ノウスも貴族らしくない服装で私の隣を歩いていた。
そんなノウスのいつも通り明るい表情を見ながら私はある事を考えていた。
(……やっぱり私を気遣って学園休んだのかな。)
勉強は嫌いだけど学園で友達と過ごすのは好きなはずのノウス。
私を口実にさぼろうと考えたわけではなさそうに思える。
何はともあれ、ノウスに付き合うってなるといつも元気すぎるノウスに連れまわされすぎてひどく疲れることが多い。
流石に今日はそれは嫌だなぁなんて思っていた時だった。
「お、アリステラ、あそこのカフェに入ろうぜ。」
太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべるノウスが私の承諾を得るため私にその笑顔を見せてくる。
そんなノウスにちょっと笑いをこぼしながら私はノウスの提案を受け、二人でカフェに入ることにした。
「お!見ろよアリステラ!カップル限定パフェだと!これを一緒に食ったら二人はさらに仲良し、だってさ。これ頼むか?」
席に着くなりメニューを見て興奮するノウス。
ノウスは体を動かすのが好きな分食べるのも好きだ。
だからこういった変わったメニューなどにはどうも惹かれがちなところがある。
だけど―――――
「さ、流石にそれは遠慮したいかな。」
もしもノウスのお相手、ファウスにカップル限定パフェなど食べてるところを見られたら今以上にやばい呪いが飛んできかねない。
本当日常生活に影響のない呪いが飛んできている今と違い、命が危うくなる呪いが飛んでき始めたら笑えないので身を滅ぼしかねない行動は避けたい。
そう思い私はパフェを断るものの何故かノウスはカップル限定パフェを頼む。
私は急いで自分の食べたいものとドリンクを頼み、パフェスプーンは一つでいいことを告げた。
「そんなに嫌か?」
とことんノウスとのシェアを拒む私に苦笑いを浮かべてくるノウス。
なんというか、正直タイムリー過ぎるのだ。
「カップルじゃないからね、そもそも。兄妹なんだから、私たち……。」
ヴァルドとのことで悩んでいる私にはちょっと受け入れがたい提案ということに他ならないのだから。
なんて思っているとノウスは大きなため息をついた。
そして――――――
「……もしかしてさ、ヴァルドにその、告白された?」
思ってもみなかった言葉がノウスの口から飛び出してきたのだった。
「なん……で……」
どうしてそれを知っているのか。
そう言いたいけれど驚きすぎてうまく言葉を紡げない。
そんな私の反応を見てノウスは「あぁ~」とうなりながら頭を掻き無理し始めた。
「……その、気づいてたんだよ。あいつの気持ちに。あ、多分他の奴らは気づいてないと思うから安心してくれ。ヴァン兄は恋愛とか疎いしほぼ王子とべったりで王宮に顔出してるだろ?で、ブランは他人に興味ないから気づいてないだけかもだけど……まぁ、お兄ちゃんはこれでもよく見てるんだよ、お前たちをさ。」
何とも言えない顔。
そんな顔を浮かべるノウスを見て私はひどく複雑そうな表情をさせているのは私なのだと理解してしまう。
そりゃそうだろう。
兄妹間でそんな面倒な問題が起きていたら複雑な表情だってしたくなると思う。
それに――――――
「一応言っとくけど兄弟での恋愛は別におかしくないからな。」
視線を落としながらぼそりとつぶやくノウス。
そのノウスの言葉に私はこの世界での常識を思い出した。
一般的に良しとされないとはいえ、貴族では兄妹での結婚はないわけではない。
つまりヴァルドの気持ちを知っても「あきらめさせる」なんて行動は兄としても取れないという事。
そしてそれが何を意味するのか。
それは私もヴァルドも大事に思ってくれている「兄」としてノウスは何の手助けもできないという意味だった。




