第65話
「……悪い、ブラン。席はずしてくれねぇか?」
突然不穏な質問を向けられ、私が言葉を失っているとヴァルドは静かにブランに部屋からの退出を促した。
その言葉にブランは首をかしげるものの「わかった。」と言って静かに部屋を後にした。
そして静まり返った部屋に私はヴァルドと二人気になってしまったのだった。
(……え?ちょ、何、この質問……!)
どういう意図でされた質問なのかわからずひどく困惑する。
でもとりあえず問いかけられたのだから答えないといけない。
別に関係を聞かれても深々何から何まで話す必要はないわけだ。
私は素直に簡潔に私たちの関係を口にした。
「ドレッドと私は「友達」だよ。」
そう、この答えでいいはずだ。
別に嘘は言っていない。
ドレッドにも確かに「友達」と言われた。
私たちの関係はこれで間違いないはずだと思いヴァルドの反応をうかがっていると
ヴァルドは盛大な溜息をついた。
「ただの「友達」にあいつが言ったのかよ、闇ギルドの人間だって。」
「…………え?」
どこか苛立たし気にかけられる言葉。
その言葉の意味が解らず一瞬、私は固まった。
(ちょ、ちょっと待って?どうして私がその事実を知っていることをヴァルドが知ってるの?もしかしてドレッドが言った?で、でも、ドレッドはそんな不必要そうな事口にしないと思うし……。)
どうしてヴァルドの口からこんな質問が出てきているのだろうか。
そんなことを思いながらただただ沈黙を貫いているとヴァルドが私の手に自分の手を重ね、語り掛けてきた。
「あいつはやめとけ!ぜってぇ後悔する!!確かにあいつはお前の事をちょっとは大事に思ってるかもしれねぇけど、あいつはどこまで本気かわからねぇような奴だ!あいつと付き合うなんて俺は絶対許さないからな!」
「…………はい?」
力強い声と力強い瞳に見つめられながらすごい勢いでかけられる言葉。
その言葉が訳が分からなかった私は気のない返事を返した。
というか、本当にどういうこと?
「アリステラ、頼む!あいつとは別れてくれ!!」
真剣な瞳で訴えかけられる私。
ようやく何の話か分かりやすく口にしてくれたヴァルドに私は―――――
「……は、はぁぁぁぁ!?」
驚きの声を返した。
「ちょ、ちょっと待って!本当に何でそんな勘違いが生まれてるの!?ないない!絶対無い!!しかもあいつは私の事すぐ男扱いしてくるんだよ!?付き合うとかありえないってば!!どうしてそんな勘違い――――――あ。」
あまりにも予想外な発言に驚き言葉を捲し立てていた私。
けれど何故そんな勘違いが生まれたのか予測できる出来事があったことを思い出す。
(あ、朝帰りがバレた時の件か……。)
どこかの誰かさんがややこしいごまかし方をしてくれたような覚えがある。
あの後特に問い詰めてこなかったから大して気にしていないのかとも思ったけどどうやら自己解釈してらっしゃったようだ。
「……あの、本当にドレッドとはなんでもなくて、その、え~っと……。」
(あ、そういえばヴァルドを本気で怒らすために嘘をつけって言われたのが始まりだっけ。)
順を追って話すとまずいところをかいつまんで親しくなった経緯でも話そうと思ったけど、よく考えれば「王宮に泊まった」というのが嘘だとばらされない為にドレッドの取引に応じたところから深い関係は始まった。
まずその話すらできない時点で積んでいるというものだ。
「と、とにかくドレッドとはそういう関係じゃなくて――――――」
「じゃあ何であいつはお前を襲おうとしてたんだよ。」
どう説明すればいいかわからない私はとりあえず否定をしようとしたが私の言葉を食うようにヴァルドは言葉を返してきた。
そういえばドレッドに行き過ぎたスキンシップをされているところをヴァルドに止めてもらったことがあるのを忘れていた。
「あ、いや、あれはその、悪ふざけ?というか、えっと……。」
またも説明が難しいところをついてくるヴァルド。
本当に痛いところをついてくる。
何もうまく説明できないでいる私にさらに訝し気な視線を向けてくるヴァルド。
そして――――――――
「頼むからちゃんとした奴を選んでくれよ。じゃねぇと俺はお前を手放せないんだよ。……アリス。」
とてもつらそうな声で手を震わせながら私の手を握ってきたヴァルドはひどく困惑している私に突然、自分の唇を重ねてきたのだった。




