第62話
「アリス、僕は君が君の兄弟を嫌っているとか距離をとっているとか、そういう風には思えないんだ。最初はいいところのお嬢さんが屋敷を抜け出して僕のところに来る理由がわからなかったからそういう理由も考えたけど、君から兄弟に対する意図的な壁を感じた事がなかった。ただただ君は自由で、やりたいことをやっているだけにしか見えなかったから。」
ルイスは私の頭をなでながら私自身が兄たちに壁を感じていないであろうと推測した理由を話してくれる。
そしてそんなルイスの推測はもちろん当たっている。
別に皆が嫌いで抜け出しているわけじゃなく、ルイスの傍にいたいから抜け出しているだけ。
異論なんて何もない。
「まぁ、だから正直アリスとご兄弟に壁があるなんてことは全然知らなかったんだけど、依頼を受けた時に「妹との接し方がわからず、妹の決めたことに口を出していいのかわからず、タイミングを逃し「行くな」と言えなかった。」って話されたんだ。
だから依頼を決めたって。君のお兄さんは男心はわかっても女心はわからない。だからせめて安全を願って探偵を雇う事しかできなかったってわけ。」
「……ヴァンお兄様がそんなことを……。」
私に向けられた「薄情」という言葉。
その言葉をルイスは否定してくれたけど私は自分に対して自分は薄情だったと反省する。
原作を知っているが故に正直、どこかで兄たちの事は完全に知ったつもりになっていたと思う。
……私に対し思っていたこと、そして私の為にと思ってとってくれた行動。
私は何一つ理解しようとしていなかった。
そう思うと私は「薄情」なんだと思わざるを得なかった。
(……どこかできっと私は兄弟を兄弟と思っていなかったのかも……。)
本来原作では死んでいる私。
そんな私の居場所はここじゃないといわんばかりに私は兄弟たちとひどくは深い中にならなくていいと思っていた気がする。
いや、というかほら、じゃないとみんなのお相手がこぞって私を恨んでくるし……。
だけど皆はちゃんと私と向き合おうとしてくれて、知ろうとしてくれて、大事な「家族」として思ってくれている。
「もっと、皆と過ごす時間を大事にしなきゃだめだね。」
兄弟たちが私に感じていることをちゃんと知って、私の考えや生き方も知ってもらって、もっともっと互いの理解を深め合って本当に仲のいい家族になりたい。
……ルイスのおかげでそう思えてきた。
「うん、そうして?というか、そうしてもらわないと困るんだ。」
「……困る?」
あまり人と人との関係に口を出さないルイスにしては珍しいおせっかいを焼いてくれたのだと思っていた私は「困る」という言葉に首を傾げた。
一体何がどう困るのだろう。
なんて思っているとルイスは静かに私の隣に座り直した。
「アリス、ライラ夫人は強敵だよ。君をライラ夫人から守るためには君の家族の協力もいるんだ。だから君と家族の間に本音を言い合えないような壁があると困るんだ。……というか何より君がライラ夫人に対して警戒心を持ってないのが一番問題なんだけど。」
「あ……。」
ライラ夫人への警戒心がないといわれ、私は苦笑いを浮かべてしまう。
……忘れていた、ライラ夫人の件は全く片付いていないことを。
なんかもう終わったことのように感じていたけれど多分、これからが本番だろう……。
「ご、ごめんなさい……。」
すっかり頭から抜け落ちていたことに自分で自分にあきれながらルイスに謝る。
するとルイスは私の頬を痛くない程度の力でつまんできた。
「本当、わかってる?君はライラ夫人に貞操を狙われてるんだよ?なんて言ってもどうせ2、3日もしたら頭から抜け落ちそうだから君の家族に気を付けてもらわなきゃ。」
私に対しあきれながら言葉を放っていたルイスは言葉を言い終わるとつまんでいた私の頬をはなす。
そして続けて静かに言葉をこぼした。
「……あの人に対してどんな対策を講じるにしても君の家族を巻き込まずにはいられないだろうからねぇ。」
ひどく真剣な声音と表情。
一体巻き込まずにはいられないとはどういうことなのだろう。
私は今現在ルイスの頭の中でどんな対策案が練られているかを理解できずただただ首を傾げ、ルイスを見つめるのだった。




