第59話
「……あのさ、お前は恋バナとか好きかもしれないけど俺は違うわけ。ついでに言えばお前ほど暇じゃない。だから――――――俺の服、離せよまな板っ……!!」
帰ろうとするドレッドの服を掴む私に落ち着いた声からだんだんイライラした声に声音を変えて言葉を投げかけてくるドレッド。
しかし私はどうしてもドレッドを返すわけにはいかない。
「だって、だってルイスがぁぁぁ~~~!」
現在、朝の10時。
ルイスは雑貨屋の営業の為に1階に降り、ドレッドはやらなければいけないことがあると帰ろうとしていたが私がそれを呼び止めている状況だった。
「胸は絶望的なのはわかってる!わかってるからこそ絶望的なのぉぉぉ~~~!」
あまりにもどうしていいかわからず涙まで出てきてしまう。
というか友達なら本当、鬱陶しがって雑な扱いしてもいいから私の嘆きを聞いてほしい。
そう思いドレッドを呼び止めているとドレッドはひどく呆れたようにため息をついて私の近くの椅子に腰かけてくれる。
それを見て私はまだ足腰が痛く固い椅子に座るのはつらいためベッドに腰を掛けた。
その瞬間だった。
ドレッドは私を一度安心させてから不意を衝く作戦をとろうとしたらしくすぐに立ち上がり部屋から出ていこうとする。
が、私はそんなドレッドの行動を予測しており、ドレッドを捕まえた。
するとドレッドは本当に苛立たし気にため息を吐き、改めて椅子に腰を掛けると
「で、何?」と私の話を聞いてくれる素振りを見せてくれた。
「……胸、揉んだら大きくなるって本当かな?」
「相談する相手間違えてるぞ、まな板男女。」
鼻をすすりながら真面目に問いかけた問いにドレッドがバッサリと苛立たし気に言葉を返してくる。
確かにドレッドの言う通り相談する相手は間違っているとはわかっている。
だけど相談できる相手はもちろんいなければ愚痴る相手もドレッド以外にいない。
そう私は解決策はさておき、とりあえず愚痴を聞いてほしくてドレッドを呼び止めていたのだ。
「あ、じゃあそんなに気になるなら俺が揉んでやろうか?」
「いや、それは絶対要らない。冗談でも嫌。」
余所行きモードで冗談をかましてくるドレッド。
そんなドレッドに私はとてつもなく素の表情で真面目に返答を返す。
「おい、殺さねぇから半殺しにさせろよ。」
私の返答がひどく不快だったのだと思う。
……素と余所行きモードが入り混じったような表情と声ですごく怒られてしまった。
「っていうかあんまり気にしないでいいだろ、昨日の話。一晩寝て考えたら納得したっていうか、理解した。今のお前にとって悪い話じゃないから気にしなくていいんだよ。」
ひどく呆れたような溜息を吐きながら足を組み、ジト目で私を見てくるドレッド。
そんなドレッドの言葉がどうにも理解できず首をかしげているとドレッドは苦笑いを浮かべた。
「お前本当自分の事に鈍感すぎてウザ。まぁ、お前はちゃんと愛されてると思うけど?あの人の事をもっと理解したら昨日の言葉の意味が解るかもな。」
呆れたように言葉を吐き捨てたと思ったら素の口調でどこか優しく慰めるように言葉をかけてきてくれるドレッド。
そんなドレッドの優しさが心にしみては来るけれどちょっと何を言いたいのかがわからない。
というかまるで――――――
「私よりドレッドの方がルイスを理解しているみたいな言い方……。」
「理解してるよ、男だからな。」
ふてくされたように言葉を吐き捨ててみると勝ち誇った顔で言葉を返される。
腹が立つと思うけど正直男の子同士だからこそ理解できるものだってあると思う。
それが解る私はそれ以上は言い返せず、ドレッドはそんな私に「悩むだけ無駄」と言って今度こそ帰っていった。
「……ルイスを理解、か……。」
ドレッドに言われた言葉が気になり、誰もいなくなった部屋で復唱する。
とはいえルイスの事はある程度理解しているつもりだ。
でもほとんどとはどうしてもいえない。
それはまだまだルイスの言動に理解が追い付かないものが多いからだ。
(もっとそれが解るようになったら私が悩まないでいい理由もわかるのかな?)
なんて思いながら私はルイスの家に家族公認でいられる最終日を静かに静かに過ごしたのだった。
 




