第58話
夜会の後ルイスの店に来て二度目の朝を迎えた私。
昨晩はルイスは部屋に戻っては来ず、ドレッドは私に謝罪をしてすっきりしたのかあの後すぐに眠ってしまった。
ちなみに何故ルイスが帰ってこなかったのが解ったかというと出すものはもうないと思うくらい出したというのにトイレに行きたくなってしまった私はトイレに行く道中、ルイスが報告書作成をしているであろう部屋の扉が少しだけ空いているのを発見した。
そしてその部屋でルイスが酔えるわけもないはずなのにお酒を飲みながら月を眺めている姿を見てしまったからだ。
報告書作成が口実か、それとも終わっただけなのかはわからない。
だけど一人で何か考え事がしたかったのかもしれない。
なんて思って静かに部屋に戻ったはいいものの底からはねつけず、朝までルイスの戻りを待っていたけどルイスが部屋に戻ってくることはなかったからだ。
そして今――――――
「……これはさすがにやばいのでは?」
私はとてもすごいものを目にしていた。
徹夜したのかなとおもいながら朝一ルイスの様子を見に来ると窓に体重を預けて眠っているルイスを発見した。
何もかけずに眠ると風邪をひくかもしれない。
そう思いブランケットをかけてあげようとブランケットを寝室から持ってきて扉を大きく開けた時だった。
目に大量の酒瓶が飛び込んできたのだ。
ルイスが腰かける椅子の前にあるテーブルいっぱいにおいてあるお酒の空き瓶。
軽く10本は越えているだろう。
(酔えないのにこんなに飲む理由って何?)
酔って気分を変えたくてお酒を飲むとか、味が好きだとかはよく聞く。
だけど仮に味が好きでも流石にこの量は飲みすぎでは?
なんて思いながらも私は当初の目的通りルイスに近づきブランケットをかけようとした。
その時だった―――――。
「んんっ……アリス……。」
突然小さくうなりながら私の声を呼ぶルイスの声が聞こえる。
もしかして起こしたのだろうか。
なんて思うけどどうやらそうではないらしい。
(寝言……だよね?)
明らかに閉じている瞳。
空く様子は全くと言っていいほどない。
(……なんか寝言で名前呼ばれるって照れくさいけど嬉しいな。)
夢の中でルイスはきっと私と一緒に居る。
そう思うと本当、いろいろどうでもよくなってくる。
例え過去にルイスが別の人を愛していたとしても今潜在意識で一緒に居たいと思ってくれているのは私なのかもしれない。
そう思うととても嬉しくて仕方ない。
なんて思っていたその時だった。
「……すごい……まな板……。」
(……どうしよう、一気に気持ち冷めた。)
寝言でまで私が一番気にしていることを言われるとは思わなかった。
というか一体どういう夢を見ているというのだろう。
なんだかよくわからないけどこれ以上その夢を見ていてほしくない気がした私はよくないことはわかりつつもルイスの鼻をつまみ、ルイスの呼吸を乱す。
するとほどなくルイスは呼吸の乱れに気づいたのかゆっくりと目を覚ました。
「……あれ?アリス……なんで服……?」
まだ夢心地なのかぼんやりとしたような表情で私を見つめてくるルイス。
夢で見ていた私と服装が違うとかそういう事なのだろうか。
……正直どんな夢を見ていたのか気になる。
なんて思っていた時だった。
「アリス……おいで……。」
とろんとした瞳、そして少しふわふわした話かたで私の名を呼び、近くへ呼ぶルイス。
あぁ、今日も朝から可愛すぎる。
なんて思いながら近づくとルイスは私の首に腕を回し、私の首にぶら下がるように体重を預けてきた。
流石にまだ足腰が痛い私にはとてもそれがきつかった為、膝を床に付けてルイスより目線を下げると今度はルイスが私の肩い顔をうずめてきた。
「アリス……アリス……早く大きくなってね……。」
ルイスは私の肩に顔をうずめながら私をぎゅっと抱きしめふわふわした声で語る。
……大きくって……――――――
(胸が!?)
とてつもなく絶望的なものを求められている。
その事実に私の全身に嫌な汗が大量に流れだす。
「ル、ルイス、あのね、それはたぶん無理――――――」
「じゃないと僕、性欲抑えられなくて何しちゃうかわからないよ……?」
「!!!!」
絶望的だということを伝えようとしてみた瞬間、とんでもない言葉が低い声で言い放たれる。
何をしちゃうかわからないというのは、まさか――――――
(娼館とかに行くってこと!?)
3番街に行けば娼館は割とある。
しかも場所が場所なだけにルイスのような見た目でもお金さえ払えば利用できたと思う。
つまり、つまりだ――――――
(私、永遠にただの相棒ポジションから抜け出せなくなるってこと?)
朝一に知ってしまったとんでもない話。
その話に私はひどく絶望したまま、朝食の準備をしようとしたドレッドに回収されるまでドレッドに抱きしめられながら打ちひしがれていたのだった。




