第57話
「いや、だから本当に悪かったって。――――っていうか本当、お前騙されやすすぎだろ。なんか騙した俺が悪いってよりも騙されやすいお前の方が悪い気がしてきたんだけど。」
私が攻撃をやめ、膝を抱えながらドレッドにそっぽを向いているとドレッドが申し訳なさそうに謝ってきた。
――――かと思えばあおっているのか今度は開き直ったドレッド。
そんなドレッドを再び殴ろうとしたその時だった。
ドレッドは私の手首をつかみ上げ、攻撃を防いだ。
「いい加減痛いからやめろ。非力なお前にでも殴られ続けたら流石に痛い。代わりにいい情報くれてやるからそれで機嫌を直せ。」
苦虫をつぶしたような顔であきれながら私を見つめ、提案をしてくるドレッド。
流石メインキャラクター。
整った顔で少し困ったような表情をされたらこちらも引かずにはいられない。
私は手に込めた力を抜き、頷いて見せた。
「これをお前にやる。」
そういうとドレッドは胸元から一枚の紙を取り出した。
というかなんでこういう時大抵ゲームのキャラとかって胸元から物を取り出すのだろう。
どこからどう見ても胸元に内ポケットがある服にしても、その服より下に服をまとっている感じがないため、普通わざわざそんな肌に近いところに入れておく?
なんて思うけどそんなことはきっと考えてはいけない事なのだろうと思いなおし、渡された紙に視線を移した。
どうやら渡されたのは画家によって書かれた絵姿で、そこには綺麗な男性の姿が描かれていた。
「それ、あの人の元カレ。ラーヴェンの起こした事件で会えなくなったらしい。」
私に見せた絵姿についてちょっと業務的な感じで淡々と説明してくれるドレッド。
本当に今日はどこまでサービスをしてくれるつもりだろう。
私が知りたい情報をことごとく提供してくれるドレッドの優しさに涙が出そうだ。
……決して絵姿の男性がどう見ても男装している時の私とも似ても似つかないほど線は細くても頼りがいのありそうな男性というのが理由ではない。
「……どっちが攻めでどっちが受け何だろう。」
「……は?受け?攻め?何それ。」
どうやらそういう言葉の使い方をしないのか私の言葉が理解できなさそうなドレッド。
まぁ、そういうのを聞くものでもなければましてや知っていても怖い。
聞かなかったことにしようと思い、私はドレッドに絵姿を渡した。
「これ、貰うのはいいかな。なんかこういうの持ってるとストーカーみたいだし……。」
これももしかしたら友達の為にってしてくれたことかもしれない。
だけどまるでドレッドに調べてくれと頼んだみたいで受け取るのは気が引ける。
もちろん好意はうれしいけど、なんか本人に教えてもらっていないことを勝手に知るのは違うと思う。
それと、見直すたびに傷つきそうな私がいる。
そう思うと絵姿を受け取る気にはなれなかった。
その私の気持ちをなんとなく理解してくれたのか、ドレッドは絵姿を元々入れていた場所に仕舞い直した。
「……ところでさ、お前は何であの人好きなわけ?俺が言うのもなんだけどあの人、俺と同じくらい胡散臭いし、どこが良いかわからないんだけど。」
写真をしまうや否や、ふと思いついたように尋ねてくるドレッド。
本当に自分で言うのも何な言葉を言っている。
(確かにちょっと似てるよね、ルイスとドレッド。)
裏社会に通じる人間はそういう人が多いのだろうかと思うくらい二人ともポーカーフェイスだと思う。
まぁ、とはいえ二人とも怒っている時はそれぞれ反応こそ違えどわかりやすいと思う。
あとドレッドはあきれてるときも顔に出やすい。
(そう考えるとルイスの方がなんか胡散臭いかも……。)
ドレッド以上に何考えているかわからないということを改めて実感すると確かに胡散臭い気がしてくる。
だけど――――――
「理屈じゃないんだ。傍に居られたら幸せだし、笑いかけられたら胸がときめくし、独占欲見せられたらたまらなく嬉しい。それでもしいて言うならどこがって聞かれると答えづらいけど多分、ルイスという人物を形成してるすべての要素が好きなんだと思う。」
(まぁ正直、綺麗にまとめてはみたものの、私自身もルイスのどこが好きってのはあまりピンとこないんだけどね……。)
正直、世間一般的な目で見ると「それどうなの?」みたいなルイスの一面はたくさん知っている。
普通に考えてなんかキープみたいな扱い受けてるし?そもそも女の子に女の子らしくないことを指摘しまくるなんてデリカシーないし、自分だって服装の趣味とかたいがい変態臭いところあるのに私にばっかり変態とか言ってくるし……。
だけどそんな私を弄んでくるところも含めてルイスという人間にときめいてしまうのだから仕方ない。
「まぁ、ドレッドも恋の悩みができたらさっきみたいにいつでも相談してね。友達で恋愛の先輩が色々相談に乗るから!」
ドレッドにどこが良いのかと聞かれたことで改めて自分がどれだけルイスが好きかということに気づいた私はあふれ出そうな「好き」という感情にちょっと気分がよくなる。
そしてからかうようにドレッドに言葉を投げかけると「ばーか」と言いながら小突かれるのだった。




