第52話 ドレッド回想
「ほら、今日の仕事分の金だ。」
……物心がついたころから「やらなければいけないこと」というのは理解していた。
それは「何かをこなして金を稼ぐ」という事。
俺には親なんていなかったから拾われ育てられた組織で「生きるために手を汚す」という生き方しか教わることはできなかった。
12歳くらいの時に自分の置かれている環境がおかしいと思って組織を抜けた俺はまっとうに生きようとして普通の仕事を探した。
最初は皿洗い、食堂の調理担当なんてことをしてたけどいつもそれらの仕事は自分に合わない気がしてしかなかった。
いつだったか忘れたけどそんなどこか違うと違和感のある日常を過ごしていたある日、俺は俺より年下の男のガキにであった。
そいつは身の丈に合わないでかい大剣を振り回し、いかにも怪しそうな奴らと対峙していた。
どっちが死ぬのか見ものだ、程度に観戦していくことにした俺は正直ガキがどんな風に痛めつけられるのかを見て楽しむつもりでいっぱいだった。
だけど面白いことにガキは怪しげな大人たちをバッタバッタと切り倒していく。
殺す覚悟がないのか力がないだけか、だれ一人殺さないせいで中途半端に攻撃を当てられた奴は何度もそのガキに向かって襲い掛かった。
だけどガキは結局誰も殺すことなく大人を地面に這いつくばらせ、起き上がれないことを確認してそのまま大人たちに背を向けて歩き始めた。
その様子を見て俺は「あぁ~あ……」と思った。
やられた振りをしてるやつがいたんだよ。
後姿を向けて無防備なガキに不意打ちかまそうとしてた汚い奴がいた。
なんとなくいい戦い見せてもらったしガキの将来が気になった俺はすごく久しぶりに殺しを働いた。
組織にいた頃は頻繁に殺しの仕事はしていた。
ブランクなんてあってないようなものなくらい殺しは手になじみ、俺に納得感を与えてくれた。
あぁ、やっぱり俺の天職は裏の世界での仕事なんだ、って。
以来俺は闇ギルドに入り、成果を上げ、気づいたら今の地位、闇ギルドのギルド長にまで上り詰めていた。
だけど上に行けば行くほど雑魚は相手にしない。
指示出しばかりでつまらない。
何か面白いことはないかと思ったときにたまたま俺の仕事先に王室から任務できていたヴァルドに出会った。
……一目で気づいた。
この小さい男はあの時俺が気まぐれで助けたガキだって。
本当なら王室が絡んだ時点で任務終了、即撤退が当時俺のギルドでのルールだった。
王室が絡めば少なからず面倒になる。
仕事が選べるほど大きい闇ギルドだったうちはそうやって王室を敵に回さない仕事の仕方をとっていた。
だからその時も何もせずただただ手を引くことにしようと思った。
だけどヴァルドは幼いガキの頃のまま大人になっていた。
決して殺さない。
その甘い戦い方のせいでまた狸寝入りをしていた奴に不意打ちをくらわさせられそうになっていた。
……あの時はただただ「あぁ、ここで殺させるのはもったいない」と思っただけだった。
それで助けて「甘い」って教えたら噛みついてくる噛みついてくる。
随分威勢だけはいいお子様を助けてしまったかも、なんて後悔してたらさ、はじめて言われたんだ。
「ありがとう。」って、感謝の気持ち。
なんかその言葉に気持ち悪いほど浮足立ってる俺がいて、また助けたら言ってもらえるのかとか考えだしたらもうおしまい。
見かければ陰ながら手助けしたりする日々を送り始めた。
まぁ、そんな頻繁に会うことになったら風貌が風貌だ。
ヴァルドは俺が闇ギルドの人間だと気づいていたうえ、仕事柄闇ギルドに詳しいのか俺がどのギルドの人間なのかを知らない間に突き止めていた。
そしてある日こちらに相談もなくヴァルドが国王にいつも助けてくれる闇ギルドの人間がいる、なんて話してさ。
非情に面倒な事にうちの闇ギルドは王室と契約関係にまでなった。
でもそれは面倒ではあったが嫌というわけではなく、ヴァルドは次はどんな風に俺の価値観や感情をかき乱してくれるんだろうって興味が尽きなくて目が離せなくなった。
以来俺は、ヴァルドから与えられるすべてのものに意味を見出すようになった。
殴られることにも、怒られることにも、笑いかけられることにも、何もかも。
ただただ、目が離せなくなってしまったんだ――――――




