第49話
夜会騒動の夜、気絶した振りをしている状態でヴァンお兄様とノウスに見送られた私はルイスとルイスの店兼家にやってきた。
肌着姿にシーツぐるぐる巻きでルイスの家に運ばれた私は到着するなり可愛いネグリジェを手渡され、それを着た。
そして今日はもう遅いから休むようにと言われたその後、「明日、ちゃんとお仕置きしてあげるからね。」と、とても怖い笑みを向けられ、その笑みにおびえる私は寝室のベッド、そしてルイスは別室で休むことになった。
そして翌日。
何故か朝一にひどく元気そうな顔で「おはよう。」とあいさつしてきたドレッドの朝食を食べ、私はお仕置きこと「下剤」を服用することとなった。
しかもその下剤は先日媚薬を飲まされたときよりも強いものでなんと下剤を飲まされた私の苦しみは日が傾くまで続いた。
前回もひどかったけれど今回は立ち上がる事すらできないほどの疲労感に完全に立てずになりベッドの上で真っ白になっていた。
腹痛が収まった瞬間、何かが切れたかのように全身から力が抜け、今に至るというわけだ。
もう足腰だけじゃなく胸やら腕やらも変に力みすぎ、さらにお腹を抱きかかえるようにトイレにこもったせいで首も痛い。
もう本当、絶対女の子が受ける扱いじゃない。
というかそもそも私自身の今のこの状況が女の子が好きな人に見せていい姿じゃない。
(もしかして私が女の子らしさを失っていくのってこういうのが理由何では……?)
恥じらいなどもろもろがなくなっていく理由にこれが上がってきそうなくらいだ。
というか……
(ルイスはどうして楽しそうにこんな私のみっともない姿が見れるんだろう…………。)
なんかもういっそとんでもなく嫌われてるといわれた方が納得するくらいだ。
……醜態をさらしすぎてつらい。
なんて思っているとルイスはそっと私の額の上に水で濡らしたタオルをしっかりと絞っておいてくれた。
「本当なんで君は探偵助手なのに軽率で考え無しな馬鹿なのかなぁ。もういっそ馬鹿な真似ができないように焼いて食べちゃいたいくらいだよ。」
頬を膨らませながら少し気落ちしたよう声で私の頬をつつきながら語り掛けてくるルイス。
そんなルイスの顔がもうとてつもなく可愛くて癒されてくる。
癒されてくるけど発言がやばい。
焼いて食べるは普通にごめんだ。
「というかアリスは本当にあの女、ライラ夫人が危険って知らなかったわけ?仮にも君ってルイスさんの助手でしょ?裏社会であの女のやばさは知らないやつが少ないほどなんだけど?」
ルイスの顔に癒されながらもベッドでぶっ倒れてる私にあきれた表情で語り掛けてくるドレッド。
ドレッドも今日一日下剤で苦しむ私の姿を見てすっきりしたのかひどくすがすがしそうに思える。
もはやドレッドはヴァルドラブだし醜態をさらけ出そうが何しようがどうでもいいや。
なんて思いながらだらしない格好で痛みに体を震わせながら知らなかったと頷いて見せた。
するとドレッドは大きなため息を吐いて「本当訳の分からないやつ。」と小さな声で言葉をこぼした。
ひどく呆れた様子のドレッドになんか申し訳なさすら感じ始めたその時、ルイスもあきれた表情と声で私に言葉を紡ぎだした。
「まぁ、ライラ夫人は女性に興味がない分女性に変な印象を与えないよう接してたからね。夫人のパーティーがおかしいなんて知らなかったんだろうけどさぁ……。探偵助手として落第点だよ。」
頬を膨らませながら私の頬に人差し指を突き刺してくるルイス。
怒られているけど可愛いルイスになんかもう、反省の気持ちが薄れていってしまう。
反省しなきゃいけないとわかっているのに素直に反せさせてくれないお仕置きかと思うくらい可愛くて我を忘れちゃう気持ちと反省の気持ちがせめぎ合う仲、私はふとライラ夫人のパーティーに行くといったときの兄たちの反応を思い出した。
(女性は知らなくても男性は知ってる一般常識?みたいな感じだったならそりゃ確かに心配するよね……。)
ヴァルドとブランが同行を決めてくれたこと、そしてライラ夫人が危ないとわかっていたからこそヴァンお兄様がルイスにライラ夫人の調査と有事の際に私の保護を依頼してくれたこと。
きっとルイスの言う通りライラ夫人は「女性には」変な印象を持たれないようにしていたけど反対に男性はライラ夫人のいろいろな噂を知っていたのだろう。
兄たちには本当にひどく不安な気持ちにさせて申し訳なかったと思う。
恐らく男性たちがライラ夫人のとんでもない噂を口にできないのは男性たちにとってその噂を女性に教えても得がないからだと思われる。
とてもとても魅力的な女性に感じられた。
きっとあの美貌に誘惑され、相方となっている女性には言えない関係を築いている人も少なくないと思う。
そして誰もがそれを望むからこそ噂について口にしないし、ライラ夫人と関係を望まない人間は余計なものに首を突っ込みたくないという精神から噂を語らないのだと思われる。
何故男性にだけ広がり女性に噂が広まらないのか。
おおよそ予想できるのはそういった事情だ。
だから要は「食われたくない男は近づくな」と男たちにはひそかに知れ渡っている存在なんじゃないかなと思う。
思う、けど……
「あ、あの、ちなみに二人は何故私が狙われたか……わかる?」
そこまで女性の間で悪い噂が立たないということは本当に徹底的に女性からの彼女への印象がいいものだということが解る。
なのに何故今回私がこのような目にあってしまったのだろう。
いや、まぁ正直二人が助けに来てくれなかったら私は心を惑わされてライラ夫人を慕っていたかもしれない。
そしたら悪いうわさを流すことは少なくともないわけで、もしかすると女性でもそういう人物が一定数いるとも考えられる。
考えられる、けど――――――
「「何でって、まぁ……そりゃぁねぇ……。」」
……気のせいか歯切れ悪く声をハモらせるルイスとドレッドの視線が私の胸元に集まっている気がする。
いや、そんなまさか……なんて思っていた時だった。
「アリスに男にある物があれば最高なのになって言ってたのを聞いた人がいるらしいってことしか知らないかな。」
ドレッドが笑いをこらえるように私に私の胸をえぐるような言葉を吐き出してきた。
想像はしていた。
していたけど、そんなまさか……。
男の人にも女の魅力がないといわれ、女の人には男だったらいいのにと思われ、私は、私は―――――――
(本気で生まれる性別を間違えたかもしれない。)
もう一度別の世界で人生をやり直したくなったのだった。




