第48話
「そういえばその、ルイスはどうしてここに?」
恥ずかしくてたまらなく近くに合った枕に顔をうずめていた私だけどふと気になったことをルイスに問いかけてみた。
するとルイスは枕に顔をうずめながらうずくまっていた私に覆いかぶさり、そっと私の首筋をなでてきた。
「実は最近アリスに割けられてる気がしてちょっとストーカーしてきちゃった。……って、言ったらどうする?」
「っ!!」
私に覆いかぶさり、更に首筋をいやらしく撫でながら耳元で色っぽい声で囁いてくるルイス。
なんて、なんて魔性な子だろう!!
そんな魔性なルイスのせいで恥ずかしさがこみあげてきて仕方ない。
なんてことを思っていた時だった。
「仕事だよ。どこかの誰かさんの策略で君のお兄さんから仕事を受けることになったんだ。」
「……え?」
私の首筋をいやらしく撫でていた手は普通に私の身体を抱きしめ、そっと耳もとで真実を教えてくれる。
そして―――――
「ねぇアリス。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?もし聞いてくれなきゃ僕、今から君が泣き叫ぶようなひどいことしなきゃいけなくなるけど、君の意見が聞きたいな。」
更に悪魔は耳元でとても怖いことをささやくのだった。
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「と、言うわけで現場に突入した時にはすでに遅く彼女はライラ夫人に薬を盛られていました。一応薬の成分を体外に出す方法はあるんですが、それは僕の監視下の元行わないと危険性がある為、差し支えなければ妹さんは週末、うちでお預かりしたいんですが……可能ですか?」
普段子供っぽい話し方に子供のような無邪気な感じで話すルイス。
そんなルイスが丁寧に大人らしく話している相手はほかでもない、私の兄たちだった。
ルイスにライラ夫人の調査を頼み、ライラ夫人がやばいと解ったヴァンお兄様とノウスはひっそりと近くまで馬車でやってきていたらしい。
そして私は今、そんなルイスたちのやり取りを聞きながら気絶した振りを決め込んでいた。
何でこんなことになっているかはわからないけどとりあえずルイスの脅しが怖くて寝たふり、改め気絶しているふりをすることになった私はルイスのお兄様たちへの報告を目を閉じ、更に背を向けてただただ静かにい聞いていた。
「何から何まですみません、ルイス殿。ご迷惑をおかけしてすみませんがどうぞよろしくお願いいたします。」
ヴァンお兄様がルイスの年を知ってか知らずか礼儀正しくルイスに言葉を返しているのが聞こえてくる。
どうやら私は週末、つまり明日明後日はルイスの家にとどまるということになったらしい。
……いつもなら手放しで喜ぶところだけど、どうしてだろう。
嫌な予感がしてならない。
「あの、すみません。妹は薬を盛られただけで済んだのでしょうか。」
嫌な予感がひしひしとする私の耳にヴァンお兄様ではなくノウスの声が聞こえてくる。
その声はいつもバカみたいに明るノウスの声ではなくひどく真剣な声。
そんな声に心配の色が伺えた。
「えぇ、体を操られて性行為らしきものを求められていましたが間一髪、そこはどうにか。」
とてもにこやかな声で話しているであろうルイスが容易に想像できる。
そんな話かたをすルイスに一つ言いたい。
(場合によっては止めようとしていなかったよね……?)
ライラ夫人とキスしかけた時にルイスが窓ガラスを割り言い放った言葉。
あれがもし本当ならルイスに不快感さえなければ私はずっと恥ずかしい姿をルイスに見られていたということになる。
……というかちゃんと聞いてないけどもしかしたら私、ライラ夫人の胸をめちゃくちゃにもんでいた姿を見られたんじゃないだろうか。
そう思うと今すぐ恥ずかしさで暴れたくなるけれど気絶した振りをしていないと後が怖いのでとりあえず気絶した振りを続ける。
が、本当、今すぐ暴れだしたい気持ちでいっぱいだ。
「あと、一応彼女の救出に向かう道中、クラウドライン家の三男のブラン殿をお見かけしましたので共にいたエレア―ノス伯爵家のご子息共々大事のない状態でご帰宅を促しました。もうご帰宅されていることでしょうから騒ぎには巻き込まれていないはずですのでご安心を。」
(……大事に至らない状態ってことは原作と違ってルチェルは薬を盛られなかったってこと?)
ひどく暴れだしたい私の耳に聞こえてきたルイスの報告する内容に私はブランとルチェルのイベントが原作通りには進まなかったであろうことを察した。
原作通りだったら二人はまぁ、私が先程夢に見ていたような展開を迎え、一線を越えるはずだ。
しかし大事にのない状態でということはルチェルは正常な判断ができる状態だった。
つまり二人の仲は進展していない。
(あぁ……ドレッドのイベントはともかく、ブランのイベント改変すると二人の好感度やら未来に影響しちゃうのかなぁ……。)
とにもかくにも今回はいろいろ失敗だった。
「……ルイス殿、この度は本当にありがとうございます。妹の意思を尊重したい気持ちと心配で仕方ない気持ちが入交り、私たちは結果的に何も行動できませんでした。……兄、失格で恥ずかしい限りです。」
辛そうに話すヴァンお兄様の声。
少し力なく放たれたその声は私の耳にしっかりと聞こえ、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
今思えばお兄様たちがルイスに依頼した理由もヴァルドやブランが私に同行してくれた理由も同じものなんだと思う。
多分皆はライラ夫人が危ない人なのかもしれないということを知っていたんだと思う。
だけどどうしてかそれを私に言えなかった。
何故言えなかったのかはわからないけど言えないには言えないなりの理由があって、言えないことにもどかしさを感じてそれぞれに同行だったりルイスに依頼するという形で対策をとってくれたのだと理解できる。
なら一言「ライラ夫人は危険、行くな。」と言ってくれたらよかったのに、と思うけどそうできない理由がきっと何かあったのだと悟ることができる。
ただ、何がどうしてこんな回りくどいやり方になったのかは知らないけど、みんなが私を思ってそれぞれに行動してくれたんだということに嬉しさを覚えずにはいられない。
そして、心配させたことをちゃんと謝らなければと心底思うのだった。




