第47話
「まずアリスがさっきまで一緒に居たライラ夫人だけど、あれは本人じゃない。ライラ夫人が作り出したと思われる「魔導人形」なんだ。」
「……魔導人形?」
聞きなれない言葉がルイスの口から出てきて私は首を傾げた。
ルイス曰く魔導人形というのは「魔導士」という禁じられた魔法を使う魔法使いのみが作ることのできる禁忌の人形で、その人形はとある人間を模したり、主の望み通りの姿を模る人形ならしい。
使い方は人形の型に主の魔力を流し込み思い描いた姿を模らせるらしく、その出来栄えは本人とそん色のない出来になるらしい。
ただ、あくまでほとんどの魔導人形は人のように流ちょうに話せなければ意思なんて持たないものらしい。
時に性能のいい魔導人形は魔力を注いだ主の意思により行動することもあるらしいけど、それはまれであり、その稀な魔導人形が私が一緒に居たライラ夫人の正体らしい。
「「魔導士」の「魔導」はね「惑う」って言葉ともかかってるんだ。ようは人を「惑わせる」ってこと。魔導士は主に物を作りあげる存在なんだけどその作るものがどれも人の心を「惑わせる」ものなんだ。例えばアリス、君も魔導人形にキスされても「不快感」や「嫌悪感」を抱かなかったでしょ?それは君が接している存在があくまで「人形」という本質を君の脳が理解していて、君の感覚を惑わせていたからなんだ。」
私は悪くない。
そうルイスが語ってくれた理由にそもそも人形と抱き合うことに嫌悪感を抱く人は人形が嫌ということ以外が要因になる場合が多いという。
その為脳があくまで人形と抱き合っていると感じるが故にたとえ無理やり迫られたとしても「嫌悪感」を抱かないらしい。
さらに言えば「警戒心」も同じらしい。
大切な密談の場に魔導人形が潜り込んでいたとしても「所詮人形」と「警戒心」を抱かないよう感覚が惑わされるらしい。
だからこそ「魔導人形」は裏社会でとても重宝されていて、取り締まっても隠れて買う人間がいるため「魔導士」は陰で反映し続けているらしい。
「あとね、君とイケナイ遊びをしてた魔導人形はちょっと特別製だったと思うんだ。明らかに催淫、そして催眠の効果があったと思う。あのまま身体を重ねてたら君は人形によってライラ夫人に恋しているような感覚を植え付けられて、ライラ夫人のとりこになっていたと思うよ。」
「…………え?」
とんでもないカミングアウトをされ驚く私。
催淫に催眠の効果なんてとんでもなくひどい効果だ。
もしかして、もしかするとだけど――――――
「あ、あの、あのね?私殺気一瞬すごくルイスが怖く感じたんだけどそれって……」
「多分催眠効果だね。……だけど、腹立つからちょっと一回泣かせていいかな?」
恐る恐る問いかけてみたらルイスは一瞬笑顔を浮かべるもその次の瞬間には目から光が消え、ひどくおぞましいオーラをまといながら少しどすの利いた声で問いかけてくる。
なんだか可愛いルイスがいやらしく指を動かしながら焦点があっていないような瞳でこちらを見つめてくる目がひどく怖い!!
あまりの怖さに体を委縮させていると「2割は冗談だよ。」と笑ってきた。
……8割本気なの?と思うけど怖いからそれにはとりあえず触れないことにした。
「ま、そういうわけで君はまんまと「魔導師」の「惑わせる術」にはまっていた。だからキスをしたんだ。力づくで惑わされた心には心からその人間が愛している人物からのキスが解除の引き金になるからね。」
「へぇ……そうなんだ―――――って、ん?」
カエルの王子様的なそういうあれかな?なんて思ったその瞬間、私はとても大事なことに気づいた。
「その人間が愛している人物からのキス」が解除の引き金になるということは私がルイスのキスで完全に解呪されたということは、つまりだ。
「本当、アリスって僕のこと好きだよね。」
「っ~~~~~。」
良い笑顔でわざわざ恥ずかしい事を言ってくるルイス。
そんなルイスに文句の一つでも言いたいけれど助けてもらった手前文句も言えない私は近くに合った枕で顔を隠し、ベッドの上でうずくまるのだった。




