第46話
「……どうやら媚薬とかは盛られてないみたいだね。脈とかも正常だし、あとは大丈夫そう。多分後遺症とかもないと思う。」
(……後遺症?)
すこしだけ物騒な言葉が聞こえてきて背筋がひやりとする。
私が受けていた魔導具の効果というのにやばいものでもあったのだろうか。
なんて考えていると突然私の鼻がドレッドの指に力強く摘み上げられた。
「おいまな板。あんまり危ない真似するなって言ったよな?殺さない代わりに犯すぞ、男みたいに。」
「っ!!!」
私の鼻をつまみながらドスの利いた不機嫌そうな低い声で語り掛けてくるドレッド。
本性がしっかり出ちゃうほどお怒りなのだろうか……。
(というか「男みたいに」って何!?普通にドレッドに襲われるのは嫌だけど「男みたいに」なんてもっと嫌!!!!)
一番私が嫌がりそうなことをおそらくわかっていってくるドレッド。
それぐらい私に対して怒っているのだろうか。
息が整わなくてただでさえつらいのに鼻までつままれて更に息苦しい私は涙目になりながら震えることしかできない。
そんな私を見てドレッドは深くため息をつくと私の鼻から指を離した。
そしてひどく真剣な声で語り始めた。
「……とりあえず聞かせてくれない?ルイスさんの見解。俺的にはあの女「魔導士」確定なんだけど。」
仕事モードというか本性というか、素の調子で話し始めるドレッド。
そんなドレッドの様子に何やらまじめな話なのだということはなんとなく理解できた私は余計なことを口出さないように静かに自分の手で口を塞いだ。
そんな私に気づきルイスは微笑みながら私の頭をなでるとドレッドに言葉を返した。
「僕も「魔導士」で確定だと思うよ。魔導人形の作り手である魔導士の手をはなれたら魔導人形はいうほどの性能は発揮できない。魔導人形の質から考えてライラ夫人は黒だね。あと、間違いなく変態だと思うよ。」
にっこりとほほ笑むルイス。
だけどそのルイスの笑みは天使の方ではなく悪魔の方。
ルイスからにじみ出る黒いオーラがルイスが不快感をひどく抱いていることを察させるには十分すぎるほどだ。
そんなルイスを見てドレッドは小さく笑うと私とルイスに背を向け、外面モードで話し始めた。
「さぁてと、俺はヴァルドでも探しに行こっかな。今日のパーティーやばい薬の持ち込み多かったし王室警備隊に通報しといたんだよね。だからヴァルドが女装を見られないよう、匿ってあげなくっちゃいけないからおっ先~。」
いつも道理飄々とした軽い口調に戻り、手を振りながら部屋の壁を蹴り破って出ていくドレッド。
(何故蹴破る必要が……。)
イライラでも溜まっているのだろうか。
……だとしたらそれは面倒をかけた私のせいかもしれない。
なんて思ってしまう。
(すっかり忘れてた……というか本気にしてなかった。ドレッドが本当に助けに来てくれるなんて……。)
絵面的には私が襲われていたというよりも私が襲っていたんだけど、鎖につながれて監禁されたというのに変わりはないし、さっきまでは何も思っていなかったけど今は本当にルイスとドレッドが来てくれてよかったと思っている。
(またちゃんとお礼を言わないと。)
なんだかんだ言って優しいドレッドに心の中で感謝しながら私はとりあえず息を整える。
すると寝転がりながら息を整えている私の上にそっとルイスが覆いかぶさった後、身を寄せ、抱きついてきた。
「いろいろ怒って、泣いて許しを請うくらいお仕置きをしたいところだけどまずはアリスがおかれていた状況について説明してあげないとね。疲れてるだろうけどしっかり聞いててね。」
ルイスは私の胸元の上で顔をうずめるような態勢で抱きかぶさり、ゆっくりと話し始めた。
ルイスが先程何故私に対し「何も悪くない」という言葉をかけたのかを。




