第44話
「ごめんね、その子は僕のだから。女同士が乱れ合うの見物するのも悪くないなって思ったけどやっぱり不快だから止めさせてもらっちゃった……。」
ひどく不快そうな笑顔。
そんな笑顔を浮かべるルイスの瞳はとても冷たい。
あまりにも冷たい瞳に恐怖を覚えてしまう。
そんな私の恐怖に気づいたのかライラ夫人はベッドに座り直し、怯える私を抱き寄せた。
「……無粋な子ね。女同士の戯れを覗き見しようとするなんて趣味が悪いんじゃない?それに一体いつから覗いていたのかしら。」
私を力強く、だけど優しく抱き寄せてくれるライラ夫人。
ルイスの表情が見たくなくて私は抱き寄せてくれるライラ夫人に身を寄せる。
するとライラ夫人は私の頭をなでながら優しい声で「大丈夫よ。」とほほ笑みかけてくれた。
その瞬間不思議なことになぜかひどく安心感を覚えてしまう。
私を抱きしめる女性は危ない人だとわかっているのに私のファーストキスを護ってくれた最愛の相手であるルイスではなく彼女に安心感を覚えるなんていいことなはずがない。
頭ではそうわかっているのにライラ夫人の言葉としぐさで恐怖がすっと体の中から消えていく。
もっと頭をなでてもっと「大丈夫」と言ってほしい。
そんな思いでより一層ライラ夫人に身を寄せた――――――その時だった。
「たちが悪いものに引っ掛かってんじゃねぇよまな板。」
ルイスとは別の聞き覚えのある声が聞こえる。
その次の瞬間だった。
小さくライラ夫人の悲痛の声が上がる。
そして私の頭をなでていたライラ夫人の手が私の頭から力なく崩れ落ちていき、さらに私を抱きしめていたライラ夫人の身体は力なくベッドの上に倒れこんだ。
一体何が起きたのか。
恐る恐るライラ夫人を見るとライラ夫人の頭に短剣が突き刺さっていた。
「い……嫌――――――」
あまりにも悲惨なライラ夫人の姿。
そんなライラ夫人の姿に胸の奥底から悲鳴が出そうになる。
だけど悲鳴をあげようとしたその瞬間だった。
突然ライラ夫人の身体が激しく爆発し、私の視界は大量の煙に包まれた。
あまりにも悲惨な姿に悲鳴をあげようとしていた私だったけどあまりの驚きで悲鳴が止まる。
一体何が起きているのだろう。
そう困惑していると私の鼻と口元を覆うようにに優しく布がおしあてられた。
「有害かもしれないから吸わないで。」
あまりの煙に視界を奪われ周りが見えないけれど声から察して私に布を押し当てているのがルイスだということが解る。
だけどルイスといえばつい今、とても冷たい瞳を向けられたばかりの相手だ。
大好きなルイスだけど今は少し怖くも感じられる。
……怖くて体が勝手に震えだしてしまう。
「……大丈夫、アリス。アリスに怒ってないよ。アリスは何も悪くないから。」
(…………え?)
ひどく冷たい視線を向けてきていたというのに「怒っていない」「何も悪くない」と声をかけてきてくれるルイス。
その言葉の意味が解らなくて目を丸くしているとそう時間がかからず私の視界から煙が消えていった。
どうやら窓枠に座っていたルイスが窓ガラスを激しく割って窓をほぼ枠だけの状態にしていたおかげで煙は勢いよく建物の外へ出ていったようだ。
悪かった視界が元に戻る。
そして恐る恐る私の口元を布で覆っていたルイスへと視線を向ける。
視線の先にはいつものように天使のような笑顔を浮かべたルイスの姿があったのだった。




