第43話
「さぁ、ゆっくり手取り足取り教えてあげるわね、アリステラ。」
ライラ夫人に手を引かれ、ベッドの上に移動する。
私の手を優しいけれど力強く引くライラ夫人によって私はライラ夫人に覆いかぶさるような態勢になった。
「……下から見上げるあなたも素敵よ、アリステラ。」
余裕たっぷりで色っぽいライラ夫人。
そんなライラ夫人を見下ろしていると体の自由の利かない私の視界にひどく立派なお胸が映りこんできた。
……大人のレッスンに対する嫌悪感はまるでないけどなんかこの胸からは劣等感脳ようなものを感じざるを得ない。
だけどそんな感情とは別に私はある事が少しだけ気になっていた。
(こんなに大きい胸ってどれだけ柔らかいんだろう……!)
あまりにも立派な女性らしさの象徴ともいえるそれに私は体の自由が利かないはずなのにごくりと息を飲み込んだ。
……なんか発想がおっさん臭くなっている気がするけどこれはきっと薬のせい。
そう、そうに違いない。
なんて思っていると私の手がゆっくりとライラ夫人の胸の上へと伸びていく。
(こ、これは私の意思!?それともライラ夫人の手ほどき!?)
……正直、どちらかわからない。
なんて思っているとライラ夫人の胸の上に私の手が置かれた瞬間、ライラ夫人は私の手に自分の手を重ねた。
「うふふ、感触が気になるなら好きにしてもいいのよ?」
(な、なんだってぇぇぇぇ!?)
色っぽく微笑みながらとんでもない発言をしてくるライラ夫人。
そんなライラ夫人の発言についつい体の自由を奪われている大変な状況だということを忘れコミカルに驚いてしまう。
……というか……。
(え?こ、公認?ってことは無理やりじゃないってことでしょ?どどど、どうしよう。正直操られてなくても触りたい……!)
あまりにも豊かなその胸におっさん臭い私が過剰に反応する。
(そ、そう、これはよくわからない薬を飲んだせい。そうよ、そうに違いない!!)
私は自分の行動を正当化する為頭の中でそれらしい言い訳を考える。
でもそうこうしている間に私の手はとても力強くライラ夫人の胸を握りしめてしまう。
その瞬間ライラ夫人が喘いだ気がしたけどそんなことはどうでもいい。
(え、なにこれ……!え、胸ってこんなに柔らかいの!?)
身体の自由こそないものの感覚はある。
今触れているものの感触がどのようなものかはしっかりと私に感じ取れた。
(こ、これがルイスの好きなものっ……!!)
そう思い始めるととても触り心地のいい感触と嫉妬心で私の心は穏やかな感情を保てなくなり始めた。
どうしてもたぶん自分が得ることができないもの。
それがひどく憎らしくてついつい触りまくってしまっていたその時だった。
「アリステラ、貴方少し意地悪だわ。」
(……え?)
私の下で寝転がっていたライラ夫人の腕が私の首に回され、そして上体を軽く起こしたライラ夫人と私の顔の距離が縮む。
「もう胸はいいでしょ?次はキスの気持ちよさ、知ってみない?」
少し荒々しいライラ夫人の息。
そんな息が顔にかかり、思考が固まった。
だけどそこに嫌悪感はなくて不思議と拒めない。
そして私とライラ夫人の唇が触れる。
そう思った瞬間だった。
突然激しくガラスが割れるような音が聞こえてきたのだった。
そして―――――――
「悪いけど悪いお遊びはこの辺で止めさせてもらうよ。」
ガラスが割れるような音がした方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
明るいけれどどこか怒気を帯びた声。
その声を聴いた瞬間私の血の気が一気に引いていくのがわかった。
(まさか、そんなはずは……だ、だって……――――)
確かブランの女装イベントにもヴァルドの女装イベントにも出てきた覚えのない人物がこんなところにいるはずもない。
なんて思いながらいつの間に自由になっていたのか、動かせるようになった体を動かして声のする方へと視線を向けた。
するとそこには笑顔だけどひどく苛立たし気に窓辺に座るルイスの姿があったのだった。




