第42話
「ねぇアリステラ。一応聞くけれど貴方は変なにおいをかいではいないわよね?」
扉と体で私を挟みながら問いかけてくるライラ夫人。
なんとなくこの人が噂されるようなレディではなくただただやばい人だとわかってきてしまった。
というかまず何よりこの状態が異常だ。
肌着姿で鎖付きの首輪をつけられベッドから一定以上の距離をはなれることが許されない私に迫るセクシーな下着姿のライラ夫人。
異様でい仕方ないこの光景にさらに怪しさ満載の「変なにおい」を話題。
何も聞き返さなくても今でそろってる状況証拠だけで体を委縮させるには十分だった。
「……その様子だと嗅いでないようね。よかった。」
何も返答をしていないけれど勝手に解釈し、勝手に安心するライラ夫人。
というか本気で何故私はこんなふうに捕まっているのだろう。
これがブランのイベントなら捕まるのはブランなのじゃないかと思わずにはいられない。
そう、確かブランは興味というなの好奇心を満たすために主催者と一夜を共にしようと夜会に参加する。
だけどそんな事情を知らないルチェルが偶然にもその事実を知り、ブランを止めようとした結果ルチェルが変に暴れられないよう主催者側に変な薬をかがされて――――みたいな流れだった気がする。
(……でもそもそもブランのイベントの場合は主催者が男の人で、ブランが男同士の恋愛に興味があるというのを知って誘ってきたってイベント。すでに主催が男の人じゃない時点で違うけど、だからってなんで私が―――――)
何故私が監禁されているのだろう。
どうしたってそう思わずにはいられない。
仮に私が男主人公ならパートナーが監禁された私を迎えに来るというシナリオもあるだろうけれど私はあくまで主人公の妹で女。
BLゲームで私がピックアップされるようなイベントがある事自体可笑しい。
だから、こんな展開は全く想像していなかったのに。
「さ、貴方も薬を飲みましょう。向こうの部屋の人たちと同じように気持ちのいいことをしましょう?あ、でも安心して。この薬は向こうの部屋のとは違って心を操る薬じゃないから。」
ライラ夫人は笑顔で口に何かの薬を含むと私の顔を両手で包み、あろうことか突然私に口づけをしてきた。
そして突然の行為に驚き、かすかに開いた私の口に無理やり舌をねじ込み、薬を私の口の中に移してくる。
ライラ夫人の手に掴まれたせいでライラ夫人を少し見上げるような態勢でキスしてしまったせいで移された薬を拒むことができず、私はその薬を危険だと察していてもなお飲み込むことしかできなかった。
……飲み込んだ瞬間、全身の血の気が引くような感覚を覚えた。
一体私はどんな危険な薬を飲まされたのだろう。
というか、本当にどうして――――――
「どうして、こんな事っ……。」
何が目的で私に薬なんて飲ませるのか。
それが理解できない私は私に薬を飲ませるとゆっくりと私から唇を離したライラ夫人に恐怖で体を震わせながら問いかけた。
するとライラ夫人はひどく色っぽい表情で私を見つめて微笑みながら語り始めた。
「勘違いしないで、アリステラ。私は貴方に乱暴をしたいわけじゃないわ。招待状にも書いていたでしょう?「大人のレッスン」をするだけ。今あなたに飲ませた薬はそのレッスンをスムーズに進めるだけの物よ。」
ライラ夫人はそういって私の頬をどこか熱っぽい瞳で見つめながら撫でてくる。
「ね、体に触られて別に変に体が疼いたりもしないでしょう?媚薬とかではないのよ。小一時間ほどあなたが私の言う通り動く身体になってしまっただ・け。」
私の頬を撫でているだけなのにどんど恍惚な笑みに表情を変えていくライラ夫人。
そんな表情で危ない薬ではないと説明されても安心できるわけがないし、何なら媚薬よりもまずいものを盛られた気しかしない。
身体が言いなりだなんて何よりも恐ろしさを感じずにいられない。
そんな恐怖を感じている私に気づいたのか、ライラ夫人はまるで小さな子供を母親があやすように私の頬に口づけをしてきた。
「こう考えて、アリステラ。私は男の人を誘うのが得意なの。だからあなたは今から私を練習台にしてその術を学ぶだけ。ただ、いろいろ口で説明されてもわかりづらいでしょう?だから私があなたの身体を操って、貴方は操られている感覚から誘い方を学ぶ。女同士なのだもの、これはちょっとした戯れ、ね?」
ライラ夫人は私を諭すようにやさしく声をかけてくる。
私のいる世界はいつからBLではなくGLゲームに変わってしまったのだろう。
「さぁ、私に全て委ねて。」
ライラ夫人が色っぽく優しい声で囁き、今度は私の首元に口づけをしてきた。
その瞬間だった。
別に媚薬を盛られたわけではないはずなのに私の頭はどこかもやがかかったみたいに細かいことが考えられなくなってきた。
そして不思議とこの状況、そしてこれからライラ夫人と行うであろう「大人のレッスン」に対する「嫌悪感」が私の中からすっと、消えていくのだった――――――




