第39話
「……おい、招待状に「仮面舞踏会」って書いてあったか?」
「ううん、そういうのは何も。」
私と同様、どこか怪しげな会場の雰囲気に怯んでしまうヴァルドとブラン。
というか……――――――
「おい、普通に男の格好で参加してるやつもいるじゃねぇか。」
男性は全員女装がルールかと思いきやどうやらそうではなかったらしく、ところどころに男性が普通にいる。
だけど割合は女性の方が多そうだ。
まぁ、ヴァルドとブランのように女装している人がほかにもいるかもしれないけれど。
なんて思った時だった。
「ブラン……まさか、ブランなのか!?」
ひどく聞き覚えのある声がすぐ近くから聞こえてくる。
いかにも怪し気な仮面をつけたその男の声、そして髪色で私は大体その男が誰なのかに気づいた。
そう、その男はほかでもない、ルチェルだ。
「お前こんな場所でそんな恰好をして何をしている!!正気か!?頭が壊れたんじゃないだろうな!?」
すごい速さで近づき、ブランに詰め寄ったルチェルはブランの肩を掴み、質問攻めをする。
その光景を見て私はふとある事を思い出した。
(あれ、これ確か原作であったイベント?)
確かブランとヴァルドを操作するときに怪しげな招待状が送られてくるイベントがある。
記憶が正しければ主催はライラ夫人ではなかったけど、ヴァルドは主催の黒い噂の真相を確かめるべくドレッドと協力しパーティーに参加。
後ろめたいことをする人間は大体ヴァルドを「王室の犬」と呼び、ヴァルドに対しある程度警戒心がある者が多いため、ドレッドがどこぞのつてで手に入れた招待状を使ってドレッドが招待客、そしてヴァルドがそのパートナーとなるべく女装をするというイベント。
嫌がりながらもドレッド好みの女の子にさせられていくヴァルドのスチルはちょっとかわいかったことを覚えている。
そしてブランはひどく興味深い招待状をもらい、自分の知識欲を満たすために条件として出された「女装」を行い夜会に参加するとそこには何故かルチェルがいたという感じのイベントだ。
ルチェルは父親のつながりで無理やり参加させられただけにすぎなかったけど、確かその夜会は乱交目的の仮面舞踏会で――――――
(……ん、あれ?ちょっと待って。)
ブランのイベントを思い出しているとふととある嫌な予感が私の脳裏をよぎる。
(これってもしかして普通にブランのイベントでは?)
どこからどう見ても怪しげな仮面舞踏会。
しかもよく見ればどこを見てもペア同士だったり、話し合いをしている人間の距離が近い気がする。
黒いうわさなんて聞かなかったからこういうことは考えていなかったけど、仮面パーティーでよくあるのは身分や本来の立場や肩書などを忘れて楽しみましょうというやつだ。
(と、とんでもないパーティーに来てしまったのでは!!??)
私のせいで同行することになってしまったヴァルドとブランには本気で申し訳ない。
そんな気持ちになってきた私は来たばかりだけれど流石に軽くライラ夫人に挨拶をしてすぐにでも帰ろうと伝えるべくブランとヴァルドに視線を向けた。
が、すでにそこにはブランはともかくヴァルドの姿までなくなっていた。
(なんでぇぇぇぇ!?)
ブランはイベント通りだったら驚きのあまりルチェルに連れられて中庭にでも行っているのだと思うけど、ヴァルドは何故!?
こんな危なげなところで一人行動なんて絶対よくないことはわかるはずなのに。
というか私を守ると言っときながら置き去りなのが少し寂しい……。
なんて思っていた時だった。
突然私の腕に一人の女性が腕を絡めてきたのだった。
「こんばんは、アリステラ様。お会いできて光栄ですわ。」
とてもいい香りの香水をまとわせながら柔らかく大きな胸を私の腕に押し当てるように抱きしめてくる女性。
その行動には女の私でもドキッとしてしまう。
(というか胸柔らかっ!!!)
大きく露出された胸。
私はいけないとはわかっていても好奇心で視線を押し当てられている胸の谷間へと向けずにはいられなかった。
(数センチだけでいいから分けてほしい……。)
なんて神は無慈悲なんだろうと涙が出そうになってくる。
が、いつまでも胸にばかり注目しているのも同じ女とはいえ失礼というものだ。
私は思い切って私に抱き着いてきた女性に言葉を投げかけてみたのだった。




