第38話
ライラ夫人に「女性らしさ」を学ぶまでルイスに会わないと決めた私は久々の社交活動のために作法、そしてドレスの新調などで忙しい日々を送った。
そして最後にルイスにあってからもう15日ほどたち、ルイス不足になりつつある私はむしろやる気に満ち溢れていた。
「お待ちしておりました、クラウドライン公爵家の皆様。」
可愛らしいメイドさんから歓迎を受け、屋敷に通される。
そう、何を隠そう今日はあの社交界の華であるライラ夫人と会える日!
絶対に今日で技術をマスターして明日ルイスに会う!
そして女らしくなった私を見て欲しい!
そんな思いで今ルイス絶ちを頑張れているというわけだ。
そして今日は週末の金曜日。
学園は土日休みなため明日明後日はゆっくりしても問題がない日。
私の作戦としてはライラ夫人から女らしさを学び、ルイスを誘惑。
久しぶりの夜会で疲れたから誰も部屋に近寄らないでといって完全に引きこもる風を装い、その実ルイスの家にお泊りしてずっといちゃいちゃ――――
というものだ。
(ヴァルドやブランの招待状にはレッスンの事は書いてなかったし、おそらく人を選んで記載したと思うから流石に胸がなくてもできる誘惑の仕方とか教えてもらえるよね?)
仮に女の武器を最大限に使うようなレッスンであれば間違いなく今日は無駄に終わる。
だけどそうじゃないことを信じ、ここまでやってきた。
そう、私は何が何でもやり通さなければならないのだ!!
私の為に何故か「女装」することになったヴァルドとブランの為にも!!!!
「くそっ……マジで歩きにくい。」
そんじょそこらの令嬢よりも可愛らしい出来栄えの「女装」をしているヴァルドが私の後ろですこし苛立たし気に声をこぼすのが聞こえる。
苛立たしげなのも無理はない話だ。
女装なんてもちろんしたくないだろうけれど、ライラ夫人からの招待状にヴァルドとブランは「令嬢の格好でのご参加を原則としております」と記載されてしまっていたのだ。
見た目だけは男子禁制の夜会、という事なのかはわからないけど条件に従わないと参加できないということで、私は「無理しなくていいからね」といったのに「女装くらいなんでもない」と言って二人は女装することになってしまったのだ。
そしてその完成度はBL作品の主人公たちだ、言うまでもない。
私より小柄なヴァルドは我儘な令嬢風、そして私より少し背の高いブランは儚げな美少女という感じの仕上がりでどこからどう見ても可愛い女の子だ。
特に悔しいことに言葉遣いや立ち振る舞いは男っぽいのになぜか私以上に女らしく見えるヴァルド。
正直、私の為に嫌々来てくれているのはわかってはいてもほんの少し殺意が沸いてしまうほどだ。
これがBLゲームの主人公補正とでもいうのだろうか。
(っていうか何、あの胸。自前?それとも何か詰めてるの?どっち!?)
胸元が少なくとも私より膨らんでいるのが確認出来てしまい、またちょっとだけ私もイラついてしまう。
胸筋があるから胸があるように見えるというやつなのだろうか。
……申し訳ないが妬ましくなってきてしまう。
「ヴァルド、ガサツな感じで歩いてるのに違和感ないね。」
ヴァルドの事を少し妬ましく思っていると今度はヴァルドの隣を歩くブランが言葉をこぼした。
それも「可愛い」といわれるのが大嫌いなヴァルドにダメージが入りそうな言葉を。
違和感がない=女の子みたいということだ。
いくら女装していてもかわいいという言葉はおそらくNGだと思う。
(ドレッドならどうなのかわからないけど……。)
スマホがこの世界にあるのなら写真を撮ってドレッドに送ってあげたい。
ちなみにドレッドは今私を男扱い……しそうな未来があるという罪でヴァルドに殴られ、ろっ骨を折ったかなんかで仕事ができなくなったと数日前に学園内で私を脅しに来た。
脅しが怖いとかより単純に申し訳がなさ過ぎて私は今日ライラ夫人の夜会でヴァルドが女装して参加するという事実をドレッドにばらしてしまった。
なので今度は週明けヴァルドがドレッドに私から聞いたとという事実を聞いて今度は私が怒られることになる未来が見える。
けど、どうせヴァルドは私に甘いから必死で謝れば許してくれると思う。
現在兄たちの中で一番ルート進行が上手くいっている二人だし、さっさと付き合ってくれればいいのに。
なんてことを思っているとメイドさんの案内の元広い部屋に到着した。
ひどく煌びやかなパーティー会場。
けれどそこでは何故か皆目元を隠す「仮面」をつけており、どこか怪しげな雰囲気に私は怯まずにはいられなかったのだった。




