第37話
「とりあえず社交活動を増やしたいという考えは尊重しましょう。私としてはアリステラが望むのであれば反対する理由はありませんので。」
朝食を優雅に口に運びながら私の考えを理解してくれるヴァンお兄様。
そしてそんなヴァンお兄様とみんな同じ考えなのか特に反対意見が出てこない。
そもそももう作る必要はないにせよ社交活動をしていたらいろんな家紋との交流だって増える。
良いことはあっても悪いことはそうそうないのだがから反対意見は出てこなくて当たり前か。
なんておもってるとずっと黙々と食べ続けていたノウスが不思議そうに話しかけてきた。
「なぁアリステラ。参加したいはいいけど、お前に来てる招待状なんてあるのか?」
「お前友達いねぇじゃん」とでも言いたげだけど特に悪意なんてないノウスの発言。
その発言は悪意はないにしても地味に胸に突き刺さってくる。
が、私も腐っても公爵令嬢。
交流関係がなくとも招待状が届くには届くのだ。
それも――――――
「社交界の華、ライラ夫人から招待状が来てたのでそれに行こうかと。」
社交界で「女を学ぶなら彼女から学べ」と言われるほど完璧な女性、ライラ夫人。
そんなライラ夫人は随分と早くに旦那様であるチェルダー伯爵を失くされている。
いわゆる未亡人のライラ夫人は寂しさを紛らわせるために頻繁にパーティーを開いているため、女を磨くと思い立った今、ちょうどいいタイミングでこれ以上とない人から招待状が来ていた為参加を決めたというわけだ。
彼女の招待状は厳選されて出されるらしく誰でももらえるものではないらしいのだけど、私には頻繁に招待状を送ってくれている。
夜会を断っていると皆に言いふらしてもらっている為、断られるとわかってて送ってくる貴族もそうそういない為、私への招待は大抵兄たちの誰かに送られてきた招待状の末尾に「是非アリステラお嬢様もご一緒に」と書かれているくらいだ。
一応公爵家の人間だし、そんな形ででも私の事を軽くでも書いておけば失礼にもならないという事だろう。
誘わないということ自体が失礼だったりすることもあるこの社交界は本当に面倒だったりすると思う。
基本王室以外気を使う家紋がないのは本当にひどく恵まれているという事なのだろう。
なんて思っていた時だった。
私は仲良く食事をとっていた兄たちが全員ひどく青ざめた状態で固まっていることに気づいた。
「……皆どうしたの?」
面白いほどにそろって固まる兄たちに声をかけた。
するとヴァルドが勢いよくテーブルに肘をつき、頭を抱え込んだ。
「はぁぁぁぁぁ……マジかよ。よりにもよりすぎだろ……。」
明らかに反応を見る限り好ましくなさそうな反応。
よりにもよってというのはもちろんライラ夫人の事だと思う。
だけど学園の令嬢たちと時折話題にも上がるほどの有名人のライラ夫人。
彼女の悪いうわさは特に聞いたことがないのにどうしてこんな反応を見せるのだろうか。
「ア、アリステラ。一つ聞きますが招待状の返答はもうすでに?」
「え?あ、はい。今朝一出しに行ってもらいました。」
ヴァンお兄様の問いかけに正直に答える私。
すると今度はヴァルド以外もみんなテーブルに肘を立て、頭を抱えだし、大きなため息をついた。
(な、何なに?本当何!?)
明らかにおかしな空気に私は困惑してきた。
そんなにダメなのだろうか、この夜会の参加。
なんて思っていた時だった。
「アリステラ、その夜会一緒に行く。」
ヴァルドの正面に座っているブランが突然軽く手をあげながら同行を口にしてくる。
興味のない事にはとことん興味の持てないあのブランがどういう風邪の吹き回しでついてきてくれるというのだろうか。
なんて思っていると私の隣に座っているヴァルドも勢いよく立ち上がり、私を見つめながら力強い言葉を発してきた。
「俺も行く!!お前ひとりでも心配なのにブランまで行くってなったらよけぇ心配で仕方ねぇっつぅーの。」
ひどく呆れたような言い方で「心配」を口にするヴァルド。
気のせいだろうか。
そんなヴァルドの言葉の裏には私とブランがまるで問題でも起こしそうで心配と言おうとしているように思える。
なんだかひどく不服だし、それに女性らしさを学びに行きたいから正直同行は邪魔なんだけど……と、心の中で思っていた時だった。
「なるほど、ブランとヴァルドは招待状をもらっていたのですね。二人が同行してくれるなら安心、と言いたいところですが招待状をもらっている以上は二人も気を付けてくださいね。」
ひどく深刻な声色で静かに淡々と話すヴァンお兄様。
そして私の正面で苦笑いを浮かべながら「頑張れよ」と手を振るノウス。
別に軽い気持ちで参加を決めた夜会ではないけど、そこまでみんなが何かしら不安を覚えるのなら正直参加しなくてもいい気になってきてしまう。
……だけど。
(招待状に書いてた「大人のレッスン」がどうしても気になるんです!!!)
男を落とす為のレッスン。
それをパーティー中こっそりと開催するという内容があった。
つまりそれは女の色香を利用し、男性を誘惑するという感じの講座に違いない。
何が何でもルイスにそろそろ私を女として意識してもらいたい!
私は譲れな戦いの為兄たちが何とも言えない感じになっているのを見ないことにするのだった。




