第32話
「ちょ…え?ド、ドレッド?」
突然の壁ドンならぬ柱ドンに困惑しながらもドレッドから視線を外さず問いかける。
するとドレッドは私の顎をつかみあげ、私の視線がドレッドから外れないよう固定してくる。
そして息がかかるほど顔を近づけた状態で話し始めた。
「お前の腹立たしいほどに澄んだ水晶のような目は一体俺をどこまで見透かしている。その様子、明らかに俺の本性には気づいていただろ。俺は1度もお前の前で本性を疑わせるような片鱗を見せたことは無かったよな?」
いつもよりずいぶんと低い声で言葉をつむぎ問いかけてくる。
表情はいつものへらへらした胡散臭い笑顔ではなく、どこまでも感情が読み取れないほど無表情。
彼は今どういう感情で問いかけてきているのだろう。
それが全く理解できない。
そんな彼に対し、私は何を言うのが正解なのだろうか。
なんて思っていた時だった。
ドレッドの膝が私の太ももの間に押し込まれ、さらにそのまま脚を使って私の体を自分の足に座らせるかのように少しだけではあるけれど持ち上げてきた。
「ちょ、ほんと、あの……」
何を意図してこんなことをするのか理解ができない。
というかデリケートな部分に脚を押し当てないでいただきたい。
なんて困惑しながら思っていると今度は私の顎を掴んでいた手が私の太ももをいやらしく撫で上げてきた。
「ちょ………!何をっ……!!」
あろうことか嫁入り前の娘に躊躇なく触れるドレッドの手を静止しようとドレッドの手を掴む。
相も変わらず何を考えているか全く分からない真顔のままドレッドは私を真っ直ぐ見つめている。
本当に意図が分からない。
それを必死に視線で訴える。
するとドレッドにその想いが伝わったのかドレッドはこの行動の意図を話し始めた。
「この間行動を共にしたことでお前がただの令嬢じゃないことは十分わかった。何せ裏の世界じゃ知らない人間がいない有名な探偵と知り合いな上、あまりにもお前は危険なことに首を突っ込むことに慣れていた感じだった。」
流石ドレッドというべきなのだろう。
恐るべき観察眼だ。
確かに危険なことに首を突っ込むことは慣れているといえば慣れて入る。
前回みたいな大きな組織に対して事を起こしたことはないけど、危険人物の尾行や爆弾の事前処理などはルイスの指示の元行ってきていた。
それは原作でルイスの有能さを知っているからこその信頼から全くと言って恐怖感がなかったのだと思う。
むしろ映画のような場面がまじかで見れるという感じで楽しんでさえもいた気もするけど、それはあくまで原作を知っているが故の信頼からくるものだ。
……あの時は途中から現実味も帯びて普通に怖かったけど。
だから確かに「原作」を知っていることで「未来」をある程度知っているという点で確かに私は普通の令嬢じゃないと言える。
だけどだから何だというのだろう。
不都合でもあるのだろうか。
なんて思いながら顔は動かせずとも瞳は動かせるわけで、視界から完全にドレッドを消すことはできないけれど極力移さないように視線をそらした、その時だった。
「お前は俺についての情報をどこからどこまで知っている?」
ドレッドは私の耳の近くまで自分の口を運び、冷たい声で疑問を言い放ってきた。
恐らくドレッドは自分が隠している秘密を私が知っていると勘づいていて、職業柄弱みを握られていることが好ましくないという理由から私がドレッドについて何を知っているのかを問い詰めているという状況なのだと理解してきた。
だけどまさか闇ギルドのギルド長で、お父様を殺した犯人で、ヴァルドのことが大好きすぎてヴァルドに殺されたいと思ってるちょっと異常な愛情の形をお持ちのお方とだと存じているだなんて言えるはずがない。
そしてはっきりいって現段階でドレッドが自ら明かしたドレッドの情報は「ラーヴェン」と何かしら関わりがあるかもしれないという情報だけ。
闇ギルドの存在などは私に明かしてはいないということはその話題ももちろんNGということだ。
何をどう説明すればいいのか。
そう困惑していた時だった。
同様のあまりドレッドの手を静止するての力が緩み、ドレッドの手が下着の仲間で侵入するのを許してしまったことに気づく。
再び急ぎドレッドの手を掴むとドレッドはまた私に語り掛けてきた。
「あの探偵から聞いたのか知らないがお前、俺が闇ギルドの人間だって知ってるだろ?」
「!!」
ドレッドの行動に困り果てながらもどうすべきか考えていた私が
丁度どうするべきか説明に困り果てていた内容について向こうからついてくる。
狙ったのか否か、それはわからないけれど本当嫌なタイミングで聞いてくる。
そんなドレッドの的確さに驚きながらもこれ以上ドレッドにすきに体を触らせないよう必死で抵抗しつつ沈黙を貫く。
逆に聞きたい。
どこでどう私がその事実を知っていることに気づいたというのだろう。
「その反応、初めて知った驚きというよりは何で知っていることに気づいたのかに驚いている感じだな。いいことを教えてやろうか?お前は感情が豊かすぎるんだよ。考えてることがバレバレだ。」
耳元で冷たく言い放たれ続ける声。
むしろここまで察しがいいのなら何を知っているかとかも察してもらえると助かるのに。
私がドレッドについていろいろな情報を持っているという事に対し疑惑ではなく確信を持たれてしまっている。
(これってもしかしなくても非常にまずい状況だよね!?)
ドレッドはついさっき私の命を守るとは言ってくれたものの、私は彼にとって自分の秘密が露見する原因となりえる危険人物だという事が明らかになってしまったというわけだ。
(……ということは私、今日明日にでも消される?)
ありえそうな予測を立て、全身から血の気が引いていくような感覚を覚える。
更に殺されるかもしれないという恐怖に体が震えてくる。
そんな震える私の恐怖は知ってか知らずか、ドレッドは小さく笑いの息を漏らし、酷く色っぽい声でどこか優しげに私の耳元で言葉を紡ぎ始めた。
「しってるか?拷問ってのは何も痛めつけるだけが手じゃない。人間は痛みを耐難いのはもちろん、限界を超えてもなお与え続けられる快楽も同じくらい苦痛だってことをさ。さて、お前はどこまで耐えれるんだろうな?」
今から私に何をしようというのかをわざわざ語ってくれるドレッド。
ドレッドは目的を語り追えると同時に酷くいやらしげに舌なめずりをして見せた。
その瞬間だった。
「いやぁぁぁぁぁーーーーーヴァルドォォォォーーーーーー!!!」
全身からこみ上げる恐怖に私は全力で腹の底からドレッドの弱手を叫んだ。
するとさすがシスコンと言えるだろう。
はるか遠くから私の名前を叫びながらヴァルドがものすごい速さでかけてくる。
そしてある程度私たちとの距離が近づき、状況を把握したと思われるヴァルドはある意味ドレッドにはご褒美とも言えるかもしれないほど激しくドレッドに殴りかかった。
私を無茶な体勢で拘束していたせいか避けそこねたドレッドは数十メートルほど殴り飛ばされ、激しい土煙を立てながら地面に倒れ込んだ。
そしてほんの少し土煙がやみ始めるといつも通りへらへらとしながら「痛いなぁ、もう~」なんて言いながらドレッドは立ち上がり、私を背に庇うヴァルドと言い合いを始めた。
その一瞬、私に冷ややかな視線が飛んできた。
その視線は何故か分からないけど全力でヴァルドに殴られるシチュエーションを作ったことへの感謝とドレッドにとってヴァルドが弱点とわかって呼んだであろうことに対する警戒のように感じられた。
私の命を守ると言ったくせに今後あっさりと意見を変えて私を殺してしまいそうなほど冷たいドレッドの視線に私は震えながら私より小さなヴァルドの背中に必死で隠れたのだった。




