第31話
「実は俺ある組織に属してるんだけど、その組織の掟にこういうのがあるんだ。受けた借りは100倍にして返して受けた恩には同等の恩を返すこと…ってね。だから俺は君に命を救われたっていう恩があるわけだし君の命が危険に脅かされることがあったら助けなきゃいけないんだよね。」
いつも通りへらへらとした話し方ではありつつもなんだかいい話風なことを口にするドレッド。
闇ギルドにも恩を重んじる掟があるのは正直驚きだ。
まぁ、借りは100倍で返すのに恩は同等なんだ……と、少し思わなくはないけど。
(でもこれって何はともあれ私は今後ドレッドとヴァルドのルート進行の関係では殺されなくなったって事ととっていいのよね?)
命を守らなきゃいけない相手の命を奪うなんて流石のドレッドでもしないと信じたい。
正直コロッと裏切られそうな気がするけど。
「えっと、それは例えば仮に私が身代金目的とかで誘拐されても助けに来てくれるってこと?」
「そうそう!だからさ…―――――あんまり危ないことに首突っ込むんじゃねぇぞ、まな板女。」
いつも通りへらへらとした話し方で私の考えに相違がないことを告げた後、ドレッドの声のトーンが突然低くなり警告と暴言を吐かれた。
(え?あれ……私なんか今聞き間違えた……?)
あまりの豹変ぶりにひどく困惑してくる。
突然変えられた態度。
その態度に思考が追い付かないのだ。
「あれ、驚いた?てっきりお前は俺の本性に気づいているものだと思ったんだけど?」
冷たい冷ややかな視線をこちらに向けながら冷たい声で語り掛けてくるドレッド。
ドレッドに二面性があるのはもちろん知っている。
原作シナリオでヴァルドにドレッドの秘密が全てがバレたあと、バレたのに取り繕うのは面倒だとドレッドは上手く世渡りをするために被った仮面を脱ぎ捨て、冷酷で口の悪いまさに悪役というキャラに変わった。
それは知ってはいるけれどまさか自分にその本性が「私」に見せられるなんて思ってもいなかったし、実際知ってはいてもひどく冷たい声でドスを聞かせながら「まな板」といわれるのはなんというか……ぐさりとくるものがある。
ルイスのように笑顔で言われるのもつらいけどまた別のつらさが込み上げてきていた。
(……ってあれ?でも確か原作でヴァルドに本性をさらしたのって全部バレたのに取り繕うのが面倒だからって理由ともうひとつ……)
確か理由があったはず。
そんなことを思い始めた時だった。
「ははははははは!!」
突然大笑いする声が聞こえてくる。
その声の主は他でもなくドレッドの声だった。
……なんか前に馬鹿みたいに大笑いされた覚えがあるのだけど。
笑われてることに更に困惑する私の目の前で目元を手で覆い隠すようにしながら大口を開けて笑っているドレッド。
ドレッドはひとしきり笑い終えると私を見つめながら話し始めた。
「ははっ、思った通りだ。狸は俺じゃなくて…お前だったか、アリステラ。」
「……は?」
どういう意味がわからず疑問の声をこぼす。
するとその次の瞬間だった。
割と距離をとっていたはずのドレッドが一瞬で私との距離を詰め、私をドレッドと東屋の柱の間に挟み込んできたのだった。
 




