第26話
「いやぁ~ありがとうね、アリステラ。君のおかげで助かっちゃったよ。」
いつも通りにこにこ……というかへらへらしながら私に治療のお礼を言うドレッド。
私がサンドウィッチを作っている間に目が覚めていたドレッドはサンドウィッチを作り終え、部屋に戻った時にはけが人とは思えないほどけろっとした表情を浮かべていた。
あまりにもいつも通りなドレッドに包帯だらけではある物の安心感を覚えた私はキッチンで準備してきたサンドウィッチをルイスとドレッドに渡し、床に座り込んだ。
そんな私の姿を見るや否や、ドレッドは目を丸くし、不思議そうに語りかけてきた。
「アリステラ……君って躊躇なく床に座るんだね。」
ひどく驚いた様子で問いかけてくるドレッド。
驚かれている意味が解らず首をかしげているとそういえばこの世界は家でも靴を履いているということを思い出す。
貴族はもちろん、平民ですら床に座るという習慣がない。
「いや、あの、これは……。」
作法がなっていないと指摘されたみたいでなんだか恥ずかしい。
「アリス、この椅子に座りなよ。」
私が自分の失態に恥ずかしがっているとルイスが椅子を持ってきてくれる。
しかしこの部屋にはルイスが持ってきてくれた椅子以外見当たらない。
だったらルイスの座る場所がなくなるのでは?と思うもののすぐその考えは改められる。
私はルイスの勧め通り椅子に腰かけた。
そしてその上に当たり前のようにルイスが乗ってきたのだった。
「え……何君たち、どういう関係?」
私とルイスの態勢を見てあのドレッドが鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべながら疑問を投げかけてくる。
なんだかいつもハトに豆鉄砲を食らわせているようなドレッドにそんな表情をさせるのが少しだけ楽しく思えてきてしまう。
とはいえ流石はドレッドと言えるだろう。
また言いにくいところをついてきた気がする。
…まぁ、普通に誰でも投げかけてくるような言葉だと思うけど。
「というか待って。普通に考えてなんで君が探偵と懇意なわけ?アリステラ、君はただの公爵令嬢だよね?」
「え!?あ、あぁ……えっと……。」
状況が理解できないと苦笑いを浮かべながら問いかけてくるドレッドが言ってはいけないワードを言ってしまう。
そのワードというのはほかでもない、「公爵令嬢」というワードだ。
実のところ私はルイスに自分が「お嬢様」という事実を明かしていない。
まぁ正直、先日の媚薬事件でドレスを着てる私を見てるからなんとなく察していると思う。
だけど少なくとも「公爵令嬢」だとは思っていないと思う。
というかルイスが探偵だという事実を当たり前のように知っているドレッドは本当流石としか言えない。
なにはともあれ話していない情報を勝手に明かされてしまい、どうしようと目を泳がせていると私の上に座るルイスがわたしの髪を軽く引っ張った。
「探偵の僕を馬鹿にしてるの?君の出自くらい知ってて傍に置いてるに決まってるでしょ。」
慌てる私に冷静に、だけどどこか呆れたように声をかけてくるルイス。
そんなルイスの言葉に私も「それはそうか……」と落ち着きを取り戻した。
「あぁ、そういえば媚薬盛られてた時に二人って一緒に居たよね。もしかしてアリステラが掘られたかもしれない相手って―――――」
「わぁぁぁぁ!ちょ、ドレッド黙って!!!」
怪我をして人をいじって遊ぶような意地の悪さを見せないと油断していたらすぐにいつもの意地の悪さを見せてくるドレッド。
ドレッドの発言で私が思い悩んでいたことがドレッドにばれたという事実がバレ、非常に気まずくなる。
つまりそれは私が永遠とそのことに悩んでたと言っているようなものなわけで……
「そっかそっか。アリスってば人に相談しちゃうほど悩んでたんだね。あまり意地悪しすぎるのもあれだし、答えを教えてあげないとね。」
ドレッドの発言のせいでひどく焦る私の膝の上でひどく落ち着いた様子でサンドウィッチを食べながら話すルイス。
そんなルイスの発言に私は目を丸くした。
「お、教えてくれるの……?」
まさかのまさか、ルイスから答えがもらえるだなんて思っていなかった私は驚きを隠せない。
むしろわざとかき回してずっと悩ませてきそうなぐらいなのにこうもあっさりと教えてくれると言ってくれるなんて意外としか言えない。
どういう心境で教えてくれる気になったのかは知らないけれどそんなことはどうでもいい。
真実は果たしてどちらなのだろう。
そう思いながらルイスの言葉を待っているとルイスは小さく笑った後、言葉を紡いだ。
「もちろん教えてあげるよ。いつか、ね。」
―――――とても可愛い声で意地の悪そうな言葉を。




