第2話
一見微笑ましい空気を作りながら腹の中で私をどう排除してやろうかと考えているであろう男たち。
そもそもその男たちにとって私を消そうとする理由はもちろん自分が結ばれるはずであったパートナーとの未来の為だ。
この世界のBLゲームは最初からカップリングが決まっており、攻め受けは自由に変更できるがそれぞれにお相手はたった一人の設定だった。
そして今私を消そうとしてきている四人の攻略対象はというと――――――
「アリステラ!!」
今、この状況を目にしてか少し遠くからこちらに向かいかけてきてくれている4人。
私の兄たちだった。
「クラウス、私の妹に無理に迫らないでくださいといったはずですが?」
不機嫌そうに第一王子を睨みつける眼鏡の男は長男のヴァン・クラウドライン20歳。
私たち兄弟が通う学園は16歳から20歳までの5年間魔法について学ぶ場所で、長男のヴァンとクラウス・ファインヴァル王子は同学年の最上級生だ。
二人はいわゆる幼馴染というやつで親友ともいえる存在……と、思っているのは兄のヴァンだけ。
実際はクラウス王子は疑り深く形のある物でのつながりでしか人を信頼できない可哀そうな人だ。
それ故ヴァンの事は好きだが信頼できない為、信頼できるように私と結婚をすることで形、というか形式上での兄弟となり、完全なつながりを得ようとしているわけだ。
「なぁなぁアリステラ、あそこでファウスがお前に話しかけたそうに見てるぜ。一緒に話しかけに行こうぜ!」
明るく太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべながら私に呪いをつぶやき続けている男、ファウス・ドゥ・ラタールの感情をこれっぽっちも理解できていないド天然な発言をするのは次男のノウス・クラウドライン18歳。ちなみにファウスも18歳だ。
ザ・陽キャ兄貴って感じの人物で誰にでも優しく、誰とでも仲良くできる。
いつも一人だった根暗のファウスをみて見かけたらしつこく構うようになった結果、今は逆にファウスに依存され、ひどく天然な性格のせいか何故かファウスがいつも私と仲良くなりたがっていると勘違いをして大体ファウスと出かけるときは私を連行し連れまわしてくる。そのせいで私はファウスに「邪魔な女」として日々呪いをかけようとされているというわけだ。
「アリステラ。こんなところで無駄な時間を過ごしてるなんてもったいないよ。僕と静かな場所に行って本でも読もう?」
真顔でぶっきらぼうに話しながらも私と一緒に過ごしたいという思いをしっかり伝えてくれる三男、ブラン・クラウドライン17歳。
稀代の天才といわれ、彼の知らないことは何もないといわれている秀才で自分が興味を持ったもの以外はどうでもいいというわかりやすい性格をしている。
そんなブランはたとえ頻繁に興味がある物が変わろうと唯一変わらず興味のある物は妹である私、アリステラ。
そして原作だとブランとカップリングが組まれているのは高飛車で俺様な男、ルチェル・エレア―ノス19歳だ。
ルチェルは一番であることに固執している。
しかし努力家の彼がどれだけ努力しようとかなわないブラン。
当然ブランをライバル視するのだけれどブランはルチェルに興味がなく、何とか自分に興味を持たせてやると奮闘しているがどうあがいても私に向ける興味に負けてしまい、ひどく私を邪魔に思っているため私に天才のブランの隣は相応しくないと自覚させ、ブランの前から消えてもらうことを目標にされているというわけだ。
「おい、アリステラ。こいつとは危ねぇから関わるなって言っただろ?つかお前も妹に話しかけてんじゃねぇ、ドレッド!!」
不機嫌に荒々しい口調で言葉を投げかけてくるのは四男のヴァルド・クラウドライン17歳。ちなみに歳で気づいたかもしれないけれどブランとヴァルド、アリステラは3つ子だ。
ひどく小柄だが巨大な魔法剣を振り回し、剣術では王国位置とうたわれる将来有望な剣士のヴァルドは王室から時折危ない任務を秘密裏に受けているため遊び人ドレッド・ヴァ―サル18歳の裏の顔が闇ギルドの一員だという事実を知っている。
そしてドレッドは私よりほんの少しばかり小さいヴァルドに「年頃の女の子より小柄なのに大男でも振り回すのが大変そうな大剣を振り回す面白い奴」と興味を示し、付きまとっている。
そしていま特に興味がある物がヴァルドの全力。
とはいえ一応普段つんけんしたいわゆるツンデレなヴァルドは情に厚く、どれだけドレッドが全力でやり合おうといっても戦えないと断られ、軽く流される日々。
どうすればドレッドが本気で自分を殺しにかかってきてくれるだろうと考えた結果、私を弄び、消してしまおうという計画を立てているというわけだ。
(はぁ……私はただ自分が死ぬ運命を変えて、せっかくなら兄弟仲良くなりたいと思って仲良くしていただけなのに……。)
結局それが裏目に出て兄たちがそれぞれ個人差はあれど「シスコン」になってしまった為攻略対象たちより私を優先してしまうようになってしまい、恋愛にまず発展しない状態となってしまっている。
(別に腐女子じゃないけど攻略対象たち可哀そうだし私は恋愛してくれってむしろ思ってるのにな……。)
邪魔をしないから勝手にどうぞと思っているわけだが、どうもそうはいかない。
兄たちは妹離れができないせいで恋愛が眼中になく、攻略対象たちはそんな兄たちに二の次にされ兄たちの一番である私を邪魔だから消そうとする。
そんな三角が何重にも作られてしまっている複雑な環境で私は今日も大量のため息をつきながら生きているのだった。