第16話
レストランから飛び出すと王子の策略かわからないけれど我が家の家紋のある馬車が見当たらない。
恐らく既成事実でも作って婚姻を固めようとでも思っていたのだろう。
この辺りではなかなか馬車が捕まらないため本当に計算されつくしていたとしか思えない。
そして今この媚薬を盛られた状態で私はすぐにでも家に帰るという方法がとれないというわけだ。
(悩んでる暇なんてない!とりあえずルイスの店にっ……!)
屋敷に戻るよりもはるかにルイスの店が近い。
媚薬は大量に水を飲むことで体外に出せると聞いたことがあるし、ルイスに水を大量に貰いやり過ごそうととっさに思い付いた。
(ここは1番街だから5番街まで少しあるけど……今は覚悟を決めていくしかない!)
一体効果が出るまでにどれぐらいの時間がかかるかはわからない。
とにかく今は走るしかない。
いや、走れば走るほど薬の周りは早くなるかもしれないけれど媚薬の恐ろしさは意外と令嬢たちのお茶会で聞くことがあった。
何か起きるとしてもルイス以外は嫌だ!!
そう思い私はただただルイスの元へ駆ける。
一秒でも早く!
そう思っていた時だった。
私は路地から飛び出してきた男の人にぶつかってしまったのだった。
「す、すみませ……」
「おうおう嬢ちゃん、どこ見て歩いてんだ、あぁ?」
ふらつきながらも謝ろうとする私の声を遮り聞こえてくる声。
瞬時に厄介な相手にぶつかったと理解した。
ただでさえ急がなきゃいけなさそうなのになんてタイミング何だろう。
「おいおい、よく見てみるとこの女、出来上がってねぇか?」
ぶつかった男は私の顎を掴んで私の顔を覗き込むと連れの男たちに問いかけた。
「本当……あのくそ王子……。」
走ったせいか媚薬のせいか息が上がってきている。
身体もひどく熱を感じる。
あぁ、もう、本当最悪だ。
「おい、今コイツ王子をくそとか言ってたぞ?身なりもいいし王族とゆかりのある人物だったりしてな。」
「お、じゃあコイツと既成事実作っちまえば俺らの今後は安泰ってか?」
笑えない冗談を言いながら大笑いする男たち。
そんな男たちの声すらもうぼんやりと遠く感じるほど意識が朦朧としてくる。
(もう……駄目かも……。)
そう思った瞬間だった。
「ぐあぁぁぁっ!!!」
バシッっと鞭のようなもので何かが叩かれたような音がする。
すこしだけ聞きなれているその音に反応し、音がした方を見てみるけれど視界がぼやけて何も見えない。
「このクソガキっ!!!――――――ぐあぁっ!!」
声が大きいおかげでかろうじてまだ男の声が聞こえる。
すると何度かビシバシと音が聞こえ、やがて音が病むと同時になんだかざわざわと騒がしくなったような寛容音が聞こえてきた。
そして――――――
「いい子いい子。いい子だからあとは僕に任せて、アリス。」
馴染みのある手が私の頭をなでる感覚を覚える。
その感覚、そして私の名前を呼ぶ声に私は安心して意識を手放した。




