第13話
「やぁ、アリステラ。来てくれて嬉しいよ。」
さわやかな王子スマイルで馬車を降りようとする私をエスコートしながら微笑むクラウス。
微笑み返す元気など正直ないがそれでも頑張って笑顔を作る。
(来てくれて嬉しいも何も断れないってわかってるくせに。)
白々しさに少しだけあきれながらもクラウスのエスコートのもと、オペラハウスに入る。
席はVIP席の個室だった。
流石王族。
なんて思いながらも肩がぶつかり合うほど近い位置に体を寄せ合う必要のないゆったりとした椅子に座ってみる事に安堵しながら、私はもう何も考えないでおこうと思いながらオペラを見始めた。
けれど悩みというのは悩みだすとどうしてこうも頭の中を埋め尽くすのだろう。
オペラの内容があまり頭に入ってこず、私はせっかくのオペラだというのに心ここにあらずで時間を過ごしてしまった。
気づけばいつの間にやら適当に生返事をクラウス王子に返していたらしい。
ふと気づいた時には貴族御用達のレストランの個室にて食事が運ばれてきていた。
(あ、あれぇ……。)
オペラ見たらとっとと帰ろうと思っていたのになぜ私は食事まで一緒に取ることになっているのだろう。
なんて思いながらクラウス王子を見るといつも通りにこにこと笑顔という仮面で本心を隠していて何もつかめない。
いったい今何を思っているのだろう。
「せっかく誘ってやったのに心ここにあらずなんてふざけるな。」か「何があったかはどうでもいいけど作戦が順調だな。」かのどちらかだと思う。
二人きりで話がしたいと給仕、護衛を追い出し私とクラウス王子は二人きりとなった。
「さて……それでは今日という良き日に乾杯……と、言いたいところだが……」
笑顔でシャンパンの入ったグラスを持ち上げたクラウス王子。
しかしそのグラスが高らかに持ち上げられることはなく、再びテーブルへと置かれる。
「アリステラ、私は王族だ。王族の義務として貴族の悩みを聞かねばならない。話せる事であれば相談に乗っても構わないが、どうしたい?」
「…………え?」
兄との関係を強固にするための道具程度にしか私の事を思っていないはずのクラウス王子。
そんなクラウス王子の言葉とは思えない言葉に私は少し驚いてしまう。
けれどクラウス王子は人前では「完璧な王子」を演じている。
もしかしたら面倒だけど聞いてみるか、ぐらいの感覚なのかもしれない。
それに正直、貴族の「想い人がいる」という言葉は婚約時に何の力も持たないからクラウス王子の求婚に「想い人がいるのでお断りします。」とは言ってこなかった。
だけど今この場所で求婚の返事を聞かれているわけではないのだし、向こうに私への好意があるわけでもないから配慮する必要だってない。
表面上は「君に求婚している男にそんな話をするなんてひどいね」くらい言われるかもしれないけれど正直、欠片も本心で思ってない人に言われても傷つきはしない。
許されるなら胸の中に押し込めていた気持ちを吐き出したい。
そう思い私は悩みを打ち明けることにしたのだった。




