第11話
「男だったら……男だったら……。」
ルイスの爆弾発言から一夜明け、私は学園に登校し授業を受けているものの授業の話が身に入らない状態だった。
「おい、アリステラ。板書の手とまってんぞ。」
面倒くさがり屋なのにも関わらず面倒見のいい隣の席のヴァルドが声をかけてきてくれる。
その瞬間「あっ」と思い急ぎ板書を進めるもどうしてもすぐに昨日の事を考えてしまう。
そしてふと思った。
(私が男だったらある意味全部丸く収まってたのかな……。)
私の兄たちは私が「妹」だからこそ特別可愛がっているように思える。
いや、もしかしたら今授業中だというのに興味を持てずにヴァルドとは違う方の隣で寝ているブランは私が男でも女でも関係なかったかもしれない。
でも他の兄たちは庇護欲てきな何かでかわいがっているようにも思える。
現に男兄弟同士は多少ブランとヴァルドが絡むくらいであとは基本的に特別親し気な感じではない。
つまりもし私が男ならそこまで興味も抱かなかったという事だろう。
……生まれる性別、間違えた気がする。
「おい、アリステラ。お前今日なんかおかしいぞ?何かあったのかよ。」
あまりにもぼぉっとしてる私にヴァルドが心配そうに語りかけてくる。
大丈夫。
何時もならそういうと思うけど今日は違う。
本当に悩みに悩んでいた私はふと思った言葉を口にした。
「男になりたいって言ったらどうする……?」
ひどくさらりとこぼした言葉。
私にとっては何気なくこぼした言葉だったがヴァルドにとってはそうではない。
「は……はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!???」
授業中なのにヴァルドは大声で叫んでしまったのだった。
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「ねぇアリステラ。なんでヴァルドは授業が終わった瞬間走って出ていっちゃったの?」
珍しく他人の行動に興味があるようで授業が終わったことで目を覚ましたブランに問いかけられた。
(まぁ、ほっといても伝わるかもしれないしいっか。)
そう思いながら私はヴァルドにこぼした言葉を伝えることにした。
「男になりたいって言ったらどうする?って聞いたらあぁなっちゃったんだ。」
はっきりなりたいといったわけじゃない。
もしもの話をしただけだけれどヴァルドはどう受け取ったのか走って行ってしまった。
というか何を思ってどこに走っていったのだろう。
(ヴァンお兄様のところにだけは行っててほしくないなぁ……。)
私たちクラウドライン兄妹には親がいない。
母親は私が6歳の時に病気で亡くなった。そして父親はというと母の危篤を知らされ、仕事で遠くへ行っていたらしいが急ぎ戻ろうとしたところを馬車を無理に走らせ転落事故にあった。
以来我が家の家紋は王室預かりになり、ヴァンお兄様が王室のサポートの元家長代理を務め、成人したのち家長となった。
つまり今一番我が家で偉いのはヴァン・クラウドラインだ。
そんな相手に面倒な話を持っていかれるのは後々が面倒くさくなりそうなのでできれば訪ねていった相手は違っていてほしい。
「アリステラが男だったらか……だったら俺の研究はかどったのになぁ。」
予想外なことに男じゃなくて残念と言わんばかりのため息を吐きながら再び寝る態勢に入るブラン。
一瞬どういうことかわからなかったけどブランのルートの話を思い出し納得した。
(そういえば男同士の恋愛になんで男同士で好きになれるのかって考えから興味を持ってルチェルと最終的に本気の恋に落ちるって話だったっけ。)
そう思うと少しだけ男じゃなくてよかったと思えてくる。
もし男ならブランの実験体にされていたかもしれないということだ。
流石に兄弟でそういう感情にはならないのでそれを思うと女でよかったなぁなんて思い始めた時だった。
「き、貴様、男になりたいのか!?」
面倒なことに休み時間を利用してブランに会いに来たルチェルに私の話を聞かれて知っていることを知ったのだった。




