外伝 ヴァン・クラウドラインと弟妹2
「よし、行くぞ!ヴァルド!!」
次期公爵として本日の跡取り教育を受け終え、自室にて復習をしていると大きな声が聞こえてきた。
窓の外を見るとノウスが三つ子を連れ出し、ボール遊びをしようとしていた。
(何を考えているんだ?あの馬鹿は。あの構え方で投げたら普通に考えてヴァルドは怪我を―――――)
様子が気になり見守っているとノウスがボールを片手に腕を大きく振りかぶり始めた。
最近ようやくしっかりと歩けるようになったばかりの5歳の子供相手にあまり歳差はないとはいえ投げる投げ方ではない。
勉強はできるのに何故遊ぶという事に関してはひどく馬鹿丸出しなのだろうか、あの男は。
なんて思っていた私はその次の瞬間、ひどく衝撃的な光景を見る事となった。
ノウスは思い切り腕を振りかぶりボールをヴァルドに投げた。
そしてなかなかの速度の出たボールをヴァルドは綺麗に受け止めたのだ。
「あ、ありえない……。」
三つ子のうちアリステラとノウスは5歳児とは思えないほど知識欲が強く、二人とも文字を習い始めたら1日で文字を覚えてしまった天才だった。
それに比べてヴァルドはまだ言葉すらあまり理解できていないのかうまく会話すらできないような子だ。
その分活発的に体を動かしているとは聞いてはいたが、流石に1年半ほど歳の離れている兄の加減のないボールを受け止められるとは思っていなかった。
一応これは三つ子は5歳、ノウスが6歳の時に起こった事ではあるが、ノウスは6歳とはいえ、誕生日が少し遅いだけで私と歳は1年ちょっとしか違わない。
だから少しずつ体が出来上がってきている私たちの年の力をまだまだ体の出来上がりきっていないヴァルドが受け止められたことに驚いた。
(……本当に、何のとりえもないのは私だけなんだろうか……。)
ノウスは馬鹿な面もあるが賢い上に問題が起きた際にはひどく冷静に周りを見て対処できる。
それもまだ6歳だというのに大人顔負けにだ。
アリステラとブランはそんなノウスに負けないほど賢い上に知識欲もある。
ブランに関してはこの間、薬学書を読んでいたと聞いた。
理解しているのかわからないが、そんなものを楽しんで読めるあたり天才なのだろう。
アリステラはどちらかというと単純に本が好きという感じではあるものの、ひどく大人っぽいと感じることが多々ある。
本当に彼女は妹で、子供なのだろうか?と思う立ち振る舞いや言葉遣いをすることがある。
そしてヴァルドは強靭な肉体……。
将来的に騎士を目指すならこれ以上とない才能だろう。
……そんな兄弟たちに比べて私には何もない。
どれをとっても他の兄弟たちの方が優れている。
それを見るたび私はひどく、惨めな気持ちになっていく。
(どうして、どうして私にだけっ……!)
思いきり拳を握りしめ、唇を噛む。
なぜ自分はこんなにも何もないのだろう。
それを考えれば考えるほど悔しくて、惨めで仕方なかった。
「……ヴァンお兄様?」
「っ!!」
拳を握りしめ、唇を噛んでいた私の手にそっと温かなものが触れた。
触れられるとともに声もかけられた私は驚きながらそれらの行動をとったものを見た。
するとそこには先程まで庭に居たはずのアリステラの姿があった。
「……何故、ここにいるんです?遊ばなくていいんですか?」
妹には兄としてみっともない姿を見せられない。
そう思った私は急ぎ笑顔を取り繕い、アリステラに笑いかけながら声をかけた。
そして声をかけられたアリステラはというと、何故かひどく悲しげな表情を浮かべだすのだった。




