外伝 ヴァン・クラウドラインと弟妹
私、ヴァン・クラウドラインにはひどく優秀な弟がいる。
兄とは下の兄弟より優れ、見本となるべき存在だと思っていた私からすれば幼少期は受け入れられない弟だった。
「兄貴、遊ぼうぜ!!」
「…………。」
受け入れがたい弟、ノウスが明るい声で声を張り上げながら扉を開ける。
ノウスは人懐っこい性格だ。
だけど人に懐く感情が理解できなかった私はそんな弟が理解できないと共に、ひどく疎ましかった。
「見ての通り私は勉強中だ。邪魔をしないでくれ。」
疎ましい気持ちから尋ねられても今とは違い、ひどくきつく冷たい言い方でノウスにそっけなく言葉を返す私。
そんな私にノウスはいつも笑顔で「そっか、ごめん。邪魔して。」とだけ返して帰っていく。
その度に私はノウスという人間が理解できないと思わずにはいられなかった。
ノウスは一見、そうは見られないがひどく優秀だ。
時々考え無しに頭より体が動くような奴だが、それは遊ぶことが好きすぎて遊ぶこととなると少し頭が足りなくなる。
しかし勉強をさせればひどく優秀。
スポーツも私と違い万能。
しかも粗野な立ち振る舞いからは想像しがたいが、ヴァイオリンの腕もなかなかだ。
何でもできる弟。
そんな弟が私のように愛想のない人間であれば私もここまで受け入れられないこともなかったのだろう。
それらの才を持ちながら人に好かれ、あいつの周りにはいつもたくさんの人がいた。
なのに賢い頭で少し考えればわかるほどノウスに冷たい私にいつもいつも声をかけてくるノウスという人間の真意、腹の中が怖くて私は仕方がなかった。
明るい笑顔の裏では私を見下しているのだろうか。
そもそもノウスはそんなことをする子なのだろうか?
天才の思考は私には理解できず、私はいつもいつも自信というものを持てずにいた。
そんな私の気持ちをお父様、お母様、そして使用人たちも気づいていた。
だからだろう。
ノウスが私に近づくたび、周りは私たちを心配そうな目で見る。
……私とノウスは兄弟というにはひどく壁のある関係だった。
そんなノウスと同様、まだ意思疎通がうまく取れないさらに下の弟、妹であるヴァルド、ブラン、アリステラの事も私はすこし苦手だった。
一番苦手だったのは妹のアリステラだった。
妹というのはどう扱えばいいのか全くわからない上、更にアリステラは少しノウスに似ていた。
綺麗な純粋な瞳はすべてを見透かしているようで気味の悪さを感じた。
アリステラはヴァルドやブランよりも早く立ち上がれるようになり、言葉も発するようになった。
そんな姿に私は嫉妬を覚えずにはいられなかったことをよく覚えている。
何故、兄である私ではなく弟、妹がひどく優秀な存在なのか――――――と。




