外伝 クラウスと兄の物語2
(はぁ……眠れない。)
私は寝つきは悪い方ではない。
けれどそんな私が全く寝付けなくなる事件が10歳のある日に起きた。
(兄上、本当に王位を継ぐ気がないのだろうか。)
昼頃、兄上が有力貴族を連れ、父上に謁見していた。
それは自信の王位継承権を返上したいという内容だった。
いい趣味とは言えないとはわかっていたけど、その話を私はすべて盗み聞いていた。
そして、王位を継承できない理由が”外見”にしかないという風に理解できた私は何故人々は兄上の有能さに気づかないのだろうとひどく嫌悪感を覚えた。
(……そういえばこの間遊び相手にって紹介された公爵家の子息、彼は兄上の有能さをちゃんとわかってくれてたなぁ……。確か、ヴァン・クラウドラインだっけ……。)
彼と初めて顔を合わせ、ともに遊ぶようにと父上に言われたことで私たちは書庫で書物を読んで遊んでいた。
今思えばあれは遊んでいたというかただただ隣で本を読んでいたに近いが、当時の感覚はあれで遊んでいる感覚だった。
二人とも学ぶことが大好きで、共に学べる相手がいるという事が何よりも楽しめる環境だったからだ。
私も兄上ほどではないにせよ勉学はできた。
そしてそんな私に負けず劣らず優秀と謳われていた公爵家の長男、ヴァン・クラウドラインも同じ考えで、私たちは遊べと言われてすぐに書庫へいき、理解できないことが書物に出てくるたびに互いに質問をしあう関係となった。
そこへ弟が初めて人と遊ぶという事で気になって様子を見に来た兄上がまるで二人の仲を取り持つように話し始めたのだった。
「こんにちは。ねぇ、二人とも僕と遊ばない?」
「「…………え?」」
いきなり現れて笑みを浮かべている兄上。
そんな兄上の言葉に私もヴァンも声をそろえて驚きの声をあげた。
「二人ともひどく勉強好きな似た者同士なのは見ててわかるんだけど、せっかくなら”ちゃんと”遊ばなきゃ。ちなみに遊ぶ内容は”推理ゲーム”なんだけど、やる?」
兄上に遊びの内容を聞かされると私とヴァンは目を輝かせた。
とある事件の犯人を見つけていくゲームで、兄上が時間がたつごとにヒントを出していく。
二人のうち先に犯人を言いあて、推理を成功させた方の勝ちで、推理、犯人がともに正解している場合のみ兄上が”正解”というという遊びだった。
その遊びはなかなかに難しく、容易に犯人を当てさせてはくれなかった。
だけどそれが負けず嫌いな私とヴァンに火をつけ、二人とも熱中した。
そして頭のいいヴァンは自分が遊んでもらったという事に気づくと――――
「第一王子はとても素敵な方ですね。」
小さく兄上に抱いた感情を教えてくれた。
そう、彼のように兄上とまっさらな気持ちで接するとみんな兄上を認めざるを得ないはずだ。
容姿がななんだ。
威厳がなんだ。
仮にそれらが足りなくとも兄上は素晴らしい。
なのにそれに気づいてくれない人間たちは、嫌いだ―――――。
(……兄上、まだ起きてるかな。)
兄上の事を考えていたら兄上に会いたくなった私は寝台の上から静かに降り、枕を抱きしめながら暗く寝静まった城の中を歩き始めた。
そして、恐る恐る兄上の部屋の扉を開けると――――――
「あれ……ラウ?」
使用人に手伝われることなく夜着に着替えている兄上の姿があったのだった。




