第100話
「ではまたお会いしましょう。次はもっと長く遊びましょうね。」
楽しそうに言葉を紡ぐハーネスさん。
そんな彼の足音は笑い声と共に静かに遠ざかっていく。
そしてそんな彼と入れ替わるようにヴァルドが私の傍に駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫か!!」
駆け寄ってきたヴァルドはひどく心配そうに私を見つめてくる。
そんなヴァルドを見た瞬間、不思議な安心感が芽生えてきた。
「だ、大丈夫です。ちょっと体に力が入らないんですけど……平気です。」
確かに首を絞められひどく苦しかった。
だけどなんというか、うまく息が止まらない具合に締められていた気がする。
(殺意はなかったってこと……?)
一体何がしたかったんだろう。
それに――――――
(正真正銘の男になったって……私の首を絞めながら魔法をかけたってこと?……そういえば少しだけ股下に違和感があるような……)
……ひどく、ひどくハーネスさんの言葉が気になってきた。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございました。僕は急いで帰らないといけないのでこれで――――――」
これで失礼します。
そう言いながらその場を離れようとしたその時だった。
「ま、待ってくれ!」
ヴァルドの手が私の手を掴み、私は呼び止められてしまった。
「そ、その、明日!明日またここで会えないか!?」
「…………え?」
呼び止めてまでかけてきた言葉。
その言葉に私は正直ちょっと焦る。
(そ、それって私がアリステラだって疑ってるってこと……?)
違ってほしいけど疑わしいからちゃんと確認したいってことなんじゃないだろうか。
そんなことが頭に浮かんでくる。
だけど――――――
「き、昨日は悪かった。その、お前が死んだ妹となんとなく似てて、妹なんじゃないかって……思って……。ま、間違えた詫びにその、うまいもんでも御馳走するから!だ、駄目か……?」
ヴァルドの言葉を聞く限りもう私をアリステラと疑ってはいないらしい。
だとしたらここで断るのは今危ないところを助けてもらったというのもある為、逆に怪しいような気がする。
「わかりました。ではまた明日、この時間にこの場所で。」
私はそうヴァルドに返答した。
そしてヴァルドは返答を聞くと掴んでいた私の腕を話してくれる。
私はヴァルドに軽く一礼し、ギルドの自室に向かい走り始めた。
ハーネスさんの言った言葉を確かめるために――――――。
・
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「う、嘘……。」
急ぎギルドの自室に戻った私はもともと部屋にあった全身鏡の前に服をすべて脱ぎ捨てて立った。
声、異常なし。
胸元……はもともと悲しいほど平らなせいではっきり言えないけど多分異常なし。
だけど股下に明らかにレディにはついていないものがついている。
(ほ、本当に男になってる!!??)
いや、男になっているというよりは元々の私の身体についてはいけないものがついただけというか……
(え、どうしようこれ。元に戻るの……?戻るよね!?)
私はハーネスさんに質問されたとき「元に戻れるなら」という言葉を確かに言った。
言ったけど――――――
最悪の状況が想像できてしまい不安が押し寄せてきた。
その時だった。
私が借りている部屋の扉をノック留守る音が聞こえた。
「おい、いるか?入るぞ。」
ドレッドはそういうとゆっくりと扉を開けた。
そして――――――
「ドレッドぉぉぉぉぉ!!!!」
私は一糸まとわぬまま部屋に入ってきたドレッドに抱き着いた。
「ちょっ!!!!おまっ、何を!!!」
いきなり全裸で抱き着かれて動揺する声をあげるドレッド。
だけど動揺しているのはドレッドだけじゃない。
「ドレッド、どうしよう、私っ、私っ…………。」
あまりにも訳の分からない状況に勝手に涙が出てくる。
確かに、確かになってみたいとは言ったけど―――――
「男の子になっちゃった…………。」
十分な説明を受けていない状態で男の子の身体になった私は泣きながらドレッドに性別が変わってしまったことを相談するのだった。




