第1話
何の因果か異世界転生というのを実体験してしまった。
前世の記憶は一般常識程度の物などは覚えていても私がどのような人物でどの様な人付き合いをしていたか、どの様な生活を送っていたのかなどの事はほとんど覚えていない。
覚えていることといえばこの世界は前世生きた世界で「アプリゲーム」として配信されていた「BLゲームの世界」という事実、そしてそのゲームの「シナリオ」についてははっきりと覚えていた。
そんな私、アリステラ・クラウドライン公爵令嬢は現在17歳。
本来であれば12年前に暗殺者の手により退場しているはずの私はその時点ではっきりとこの世界がゲームの世界と自覚があったため、自分可愛さに原作を捻じ曲げた。
そしてその結果――――――
「アリステラ、今日こそ僕との婚約を了承してもらえないかい?公爵家と王族、家柄も完璧だと思わないかい?」
「アリステラ、共に図書室へ行くぞ。今日は魔力理論を語り合うぞ。」
「アリステラ、ねぇ今夜暇?屋敷抜け出して俺と一緒にいけない遊びをしに行かない?」
アリステラ、アリステラ。
私を囲い、私の名前を呼びながら自分の言いたいことを言ってくる男3人。
自分のほかにも私に話しかけてきている人物がいるというのに一切お構いなしに自分の都合で話しかけてくる男たちに私は苦笑いを浮かべていた。
一人はこの国の第一皇子で人当たりがよく女子は誰もが憧れるといわれるまさに絵に描いた白馬の王子様みたいな人物。
一人はひどく努力家で常に学年主席。
ひどく高飛車で俺様。あまり自分から他人に構わないが私にはストーカーのごとく付きまとってくる人物。
そしてまた別の一人は学園内一の遊び人にして軽薄な何を考えているのかわからない男。暇を持てあますと問題を起こしがちな問題児。飄々とした性格で蝶のようにいつも自由に動きまわる男。
そんな男たちは学園ではちょっとした有名人で、その有名人たちが私を囲み、口々に私の名前を呼んでくる。
まるではたから見れば私をひとり占めしようと取り合っているように見えるのだろう。
現に今、遠くの方に女の子二人の姿が見え、その子たちがこちらを見て「キャー!」とテンションが上がったような声を出して去っていくのを確認できた。
私を囲う男たちは顔がいい。
それも相まって小説のようなワンシーンを見ちゃったとテンションが上がっての行動だと理解できる。
だけど彼女たちに言いたい。
(違うんです、違うんです!こいつらの攻略対象は私じゃないんですっ……。)
そう、この世界はBLゲームの世界。
私アリステラは女装男子なんかでもない正真正銘の女の子。
そして原作を捻じ曲げた結果はBLゲームから乙女ゲームになったとかいう話じゃない。
そう、一見ほほえましくも見えるこの状況だが全然、これっぽっちも微笑ましくもロマンチックでもない。
(こいつら全員、攻略対象と結ばれるために私を消そうとしてるだけなんですっ……。)
そう、こいつらは誰一人として私が好きで声をかけてきているわけじゃない。
いや、もし私が仮に原作を知らない人間ならそう勘違いしてしまうこともあったかもしれないほどこの攻略対象たちは一人を除いてはほとんど腹の中を見せてこない。
第一皇子はさわやかな笑顔の奥で私とある目的のために結婚し、その目的が果たされたなら私を殺して消してしまおうと考えている。
そして高飛車な俺様はまぁ、あまり裏はない。
とある目的のために邪魔な私を勉学でこってんぱんに叩きのめし、とある人物の傍から私を消そうとしている。こいつはもう腹の中を隠すつもりがないのでまだ幾分一緒に居て楽だったりする。
そして学園一の遊び人は昼間は学生、夜は闇ギルドのギルド長として裏世界に足をどっぷりとつけている危険人物で、彼が今一番興味のある人物の弱点である私に面白半分にちょっかいをかけており、最終的にその人物を怒らせるために私を消そうとしている。
いつもへらへらしている明るいような感じだけれどそれはうまく世を渡るために仮面をかぶっている姿で本性は冷酷無慈悲で口の悪いドライな男で、簡単に言えば超危険人物だったりする。
ついでに言えば少し先の木の陰にもう一人全く本心を隠そうとせずどうどうと私を消そうとしているこのゲームの攻略対象がいる。
こちらを睨みつけながら呪いの呪文を延々ぼそぼそとつぶやいてきていて本当に怖い。
その人物に関しても私の事が好きだ嫌いだの感情ではなく、ただ単に「邪魔」という理由で消そうとしてきている。
……おわかりいただけただろうか?
BLゲームの原作を捻じ曲げた結果、この世界は私を消そうとしてくる人物だらけの「ホラーゲーム」に代わってしまったということを。
カクヨムからの転載です。