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葬儀屋はハレの日を知らない  作者: 宵宮祀花
肆幕◆褻の道を征く者

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16/21

■シーンⅠ 逝査-Seisa-

 同日夜。私立花園大学附属中学本校舎の、屋上にて。

 呼び出された葬儀屋の二人は、苦々しい表情で椿の話を聞いた。凌は給水塔に腰掛け、誠一朗はフェンスに寄りかかって、それぞれ端末に概要を記入していく。


「取り敢えず、対象は大山とかいう教師と、あの研究所を使ってた部署の再調査だなァ。それと、過去に屍化したNOISE共も洗い直すか」

「現象には必ず原因がある。調査が済み次第、再度此処に集合しよう」


 三人は無言で頷き合い、解散した。


「相変わらず馬鹿でかい家だな……」


 椿は裏社会のコネを頼るべく、蓮城一家を訪ねた。

 蓮城一家は港市周辺を縄張りとする任侠一家だ。変異種の構成員を多く含んでおり、管理局とも協力関係にある。それだけでなく、現在の会長である蓮城宗十郎の孫娘、蓮城紫織と椿は個人的な付き合いもある。

 数日前に起こった、港市ショッピングモール倒壊事件の後始末に駆り出されたという話を又聞きしていたが、家の周辺を見るに騒動の爪痕は然程残っていないように見えた。


「紫織」


 立派な門構えの正面入口から堂々と中に入り、玄関先で声をかける。すると数秒もしないうちに扉が開き、長い薄紫の髪とアメジストの瞳を持った、小学生くらいの少女が顔を覗かせた。


「あら、ご機嫌ようゲルダ。今日はなにがほしいのかしら?」


 幼い見目に反して妙齢の女性のような艶っぽい口調で言う紫織に、椿は挨拶もそこそこに本題を切り出した。


「情報がほしい。先の事件にも関わることだ」

「いいわ。他でもないあなたの頼みだもの。上がって頂戴」

「助かる」


 純和風の大屋敷は然程ものを知らない一般人が見てもそれとわかる風情をしており、窓から望む和風庭園には、優美な錦鯉がゆったりと泳いでいるのが見える。錦絵の世界観をそのまま形にしたような作りの建物内には無数の襖が並び、大半に松や梅などが描かれている。透かし彫りの欄間とあわせてどれほどの金がかかっているやら、想像もつかない。


「どうぞ」

「ああ」


 案内された一室は、屋敷の奥にある会長の私室だった。両開きの扉を開けると、正面には重厚な木製の机と、黒い革張りの椅子が鎮座しているのが見える。足元には廊下とは異なる木材で出来たフローリングが敷かれ、その上にペルシャ絨毯が敷いてある。


「で、何の情報をお求めかしら」

「先月あたしの中学に赴任してきた、大山哲という教師についてだ。ゼエレ曰くNOISEだってことはわかってるんだが、どこから来たのかあたしには調べようがなくてな」

「了解。ちょっと待っていてね。組員は後始末に出ていて、おもてなしは出来ないけれど」

「構わない。急に来たのはあたしのほうだしな」


 身の丈に比べてだいぶ大きい革張りの椅子に飛び乗って、デスクトップパソコンを起動する。

 一見すると幼い子供が親の機材で遊んでいるような絵面だが、その見目に反して彼女の手つきに迷いはない。静かな室内に、キーボードを操作する軽快な音だけが響く。


「ゲルダ」


 複数のモニターを同時に確認しながら真剣な顔つきで捜査を続けて、暫く。紫織は手を止めた。


「見つかったか」


 椿が机を回り込み、モニターを覗くと、正面に大山の画像と偽造された履歴書などが表示されていた。別のモニターにはシンヘイヴンに登録されているデータが並んでいて、彼のコードネームや所属している部署が掲載されている。

 大山哲。コードネームは《試験官――プロクター》で、現在彼らの所属する部署が研究している屍化についての試験を学校で行うために潜り込んだとある。更に大山は、この部署のリーダーでもあるようだ。SIRENでいうところの支部長クラスが直接現場に来ているということは、彼らも随分と余裕がなくなってきているらしい。


「メンバーには先日の爆弾魔も含まれているわ。彼らの目的は同一と見て間違いないでしょうね」

「あれを学校で……あの野郎……!」


 椿が苛立ちを露わにすると、室内の気温が急速に下がった。机上に置かれた観葉植物の葉に霜が付いたのを見て、紫織は溜息を零して椿の手を軽く叩いた。


「落ち着きなさい。わたしを凍えさせるつもり?」

「……っ、悪い」


 凍りかけていた室内が、緩やかに戻っていく。

 紫織は調べ上げたデータを椿の端末に送ると、依然怒りを宿した紅い瞳を見上げた。


「連中の目的がわかったなら、まずはそれを果たすのに効率の良い場所と時間を割り出しなさい。ショッピングモールと違って今回はあなたのホーム。ならば思い当たることも多いはずよ」


 紫織の言葉を受け、椿は思考を巡らせた。

 確かに、ショッピングモールでは突発的なテロに見せかけて、最も人が多い時間帯である真昼、そして人が出入りするのに必ず通らなければならない正面ホールを選んで乗っ取っていた。

 舞台が学校であるなら、より多くを巻き込んで成果を出すにはいつどこで行うだろう。

 そう考えて、一つ思い至った。


「……そうか。明日は夏休み前の終業式だな。人の数は申し分ないだろうよ」

「そこを起爆地点にする気ね」

「恐らくな」


 盛大に舌打ちをすると、椿は机を回り込んで扉に向かった。扉を開き、外へ出かかったところで一度振り向き、


「悪いが、時間がない。礼は全て終わってからする」

「ええ」


 紫織に一言告げると、足早に屋敷をあとにした。


 * * *


「――――綺麗さっぱりってヤツだなァ」


 椿と別れたあと、凌は件の研究所跡地を訪れていた。その傍にはトランプのスートをモチーフにした派手な衣装を身に纏った、長身の青年がいる。二人とも衣服のメインカラーが鮮やかな赤で、廃ビル群の中にいると街中以上に目立っている。


「こんなんでもわかることってあんのか?」

「此処にあったものが消えたわけじゃなさそうだからね。君になにもかも焼き尽くされてしまっていたなら、さすがにわからなかったけれど」


 凌に答えると、青年《零の賢者――アンベシルゼロ》は、一歩前へと進み出た。ぐるりと周囲を見回して、手袋を外した両手を広げる。その様は、ステージに立つ演者の如く。


「さあ、教えてくれ。此処でなにがあったのか。君たちは何処へ消えたのか」


 無人の空間に語りかけると、青年の周囲に細かい砂のような粒子が集まり始めた。それを右手に集めるとぐっと握り締め、そして暫く目を閉じたまま、なにかを読み取るように佇んでいた。

 彼のフラメル能力は、誠一朗と違い情報収集力に長けている。彼の持つ物品に宿った残留思念を読み取る《黒鶫の囀り》という異能は、その場に漂う空気中の微粒子にさえも作用する。

 物の形が残っていなくとも記憶を見ることが出来る能力者は、少ない。代わりに、触れただけで意図せず物や人の意識を読み取ってしまうため、普段は強力なアンチウィルス加工がされた手袋を身につけている。


「……へえ」


 短い呟きと共に目を開き、不敵に笑う。握った手の中から、さらさらと砂が零れ落ちていく。

 砂は地面に落ちる寸前で一枚のトランプカードになり、ひらりと舞い上がって手の中に戻った。


「はいよ」


 そう言って、アンベシルゼロはジョーカーの描かれたカードを人差し指と中指で挟んで持つと、凌に向けて弾き飛ばした。


「あ? なんだって……」


 トランプなんてもらっても、と思いつつ受け止めたカードを見る。そこには、榊市繁華街近くにある鍼灸院の住所が書かれていた。

 手袋を装着しながら、アンベシルゼロは肩を竦めて嘆息する。


「そこの地下に、研究所の残党がいるよ。というか、此処にデカいのが残されてたなら、こっちは実験場みたいな場所で、あっちが本命の研究所だったかも知れないね」

「へえ?」

「如何にもな廃ビルはバレてもいい囮として。もし見つかったら屍が起動するようにしておいて、潰したと思わせて本拠地で何食わぬ顔で続ければいい。ま、多少手違いはあったようだけど」


 子供のような好奇心を目に映してカードを玩ぶ凌に、アンベシルゼロは笑って言う。


「じゃあ、あとはがんばって。俺は戦闘は苦手だから、手伝えるのはこの程度だ」

「よく言うぜ」


 すれ違い様、凌の肩を叩いて去って行ったアンベシルゼロに、凌は薄く笑って答える。

 ひらりと後ろ手に手を振って廃ビルの陰へ消えて行った背を見送ると、凌もカードを手に無人の廃墟をあとにした。


 * * *


「――――なんで俺がこんなことしなきゃなんねーんだよ……ったく」


 都内某所。古びた雑居ビル郡の一室にある事務所にて、複数のモニターを前にしながらぼやく、十代半ばほどの少年がいた。彼の袖口から数本のコードが伸びてコンソールに繋がり、キーボード操作をしなくとも少年の思うままに機械が自在に動いている。

 彼の名は空知飛鳥。コードネームを《合金製の魂――クロムハート》という。貧乏とただ働きを嫌い、金次第で何でもする万屋を開いている現役高校生で、この事務所は彼の自宅も兼ねている。ペルクナスとミーミルのハイブリッドであり、機械操作技術と高速演算能力でもって戦闘は勿論、情報収集とハッキングを得意としている。


「金を受け取ったなら相応の仕事をしろ」


 飛鳥は眉一つ動かさずに言い放つ誠一朗を睨み付けるが、全く意に介していない。


「はー……お前、金欠のときに限って面倒くせえもん持ち込むよな」


 機械に塗れて作業をするクロムハートの斜め前、上等な来客用のソファに悠々と腰掛けながら、誠一朗は道中コーヒーショップに寄って購入したアイスコーヒーを優雅に啜る。そんな誠一朗に、背後から忍び寄る影が一つ。


「お茶請けどーぞデス」


 どこかわざとらしく、ぎこちない日本語で給仕をする彼はクロムハートの助手、ジョシュアだ。初めて顔を合わせたとき、やたらとテンションの高い白人男性に「助手のジョシュアでーす!」とにこやかに挨拶されたのは記憶に新しい。

 誠一朗は、ジョシュアが流暢に日本語を話すことを知っている。彼曰く、日本では外国人訛りが入った話し方のほうがウケが良く警戒されにくいのでそうしているのだとか。


「これ、前に依頼人サンからお礼に頂いたものデース。僕たちだけではもったいないので、どーぞお召し上がれくださーい」


 ソファ前のローテーブルにクッキーのアソート缶がそのままドカンと置かれ、誠一朗は遠慮無くそれを摘まんだ。


「俺にも寄越せ」


 両手が塞がっているクロムハートに、誠一朗は適当に選んだクッキーを放り投げた。


「ん、サンキュ」


 ふわりと放物線を描いて飛んでいったクッキーは全く逸れることなくクロムハートの口に入り、それを咀嚼しながら作業が続いていく。

 無言の中、機械の放つ微かな音だけが流れ、十数分が経過した。そのとき。


「……! おい、これ……!」


 クロムハートが、焦りとも驚きとも取れる声で、誠一朗を呼んだ。ソファから立ち上がり、机の裏側へと回ってモニターを覗き込む。一番大きなメイン画面には、これまで起こった屍案件の発生場所がマッピングされており、そこから線が伸びて顔写真付きの簡易情報に繋がっている。

 それらを全て指で触れると、空中に詳細情報が浮かび上がった。


「屍化した奴らの表で使ってる名前とコードネームと異能、それから狂気を全部調べたんだけど、こいつら全員異食の狂気持ちで、同じ部署所属なんだよ」

「なに……?」


 宙に浮かぶホロモニターを見比べると、確かに全員の狂気が異食となっていた。ここまで揃って偶然ということはないだろうと薄気味悪さを覚えて居るところへ、誠一朗の端末が小さく震えた。


「……ゲルダか」


 通話ではなくメッセージだったようで、そのまま中身を開く。と、そこには彼女が調査担当していた大山という教師のデータが添付されていた。


「……また、異食か……」

「あ? まだ屍候補がいんのかよ」


 誠一朗が重々しく頷くと、クロムハートは視線で見せろと促した。誠一朗は端末情報を読み取る機械に自身の端末を翳すと、今し方送られてきた情報を転送した。それを開いたクロムハートは、険しい顔で溜息を吐いた。


「私立花園大学附属中学っつったら、エリート揃いのすげえ進学校だろ? そんなところで騒ぎを起こしたら街ごと滅茶苦茶になっちまうぜ」

「だからいま俺たちが動いている。事後では遅い」

「なるほどな」


 納得して頷いてから、クロムハートは誠一朗に一つのデータチップを渡した。


「これは?」

「管理局の研究者に渡してやれ。そうだな……お勧めはアスクレピオス辺りだな。それと本拠地の正確な位置がわかったら、お前の端末からワン切りでも一文字メールでもいいから寄越してくれ。アイツらが後生大事に抱えてるもん、根こそぎ盗み出してやる」

「……わかった」


 端的に答えると、誠一朗は足早に事務所を去った。

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