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彷徨える一〇一物語 〜魔法少女って聞いてたけれど、ちょっと想像と違う世界観だよ。外伝〜  作者: 山本航


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『報せる者』

雨上がりで濡れた学舎裏に珍しく何人かの年少者が集まっている。街まで街路の伸びる正門のある東側ならともかく、学生寮を構える北側ならともかく、西側は川か採掘鉱に用事がなければ下級学生が寄り付くことはない。大地に立つ(デダーロ)も特に用はなかったが渡り廊下からその様子を見かけ、生来の相方である好奇心を落ち着かせるために学舎裏へと赴く。


 学生たちの声の抑揚であまり気分のいい集まりではないことに気づく。捕虜のように座り込んだ一人の少年を七人の少年が囲んで、何やら悪態をついている。


「お前は嘘ばかりだな。そんなんで魔術師になれると思ってるのか? 学舎の恥さらしめ」


 主に七人の中で最も大柄な少年が高圧的に嘲り、残りが声を揃えて囃し立てている。

 罵られている線の細い少年は名を恵みの雨(インヴィコ)といい、デダーロの友人の一人だった。他の七人も同年の学生で顔に見覚えはあったが話したことのない者たちばかりだ。

 デダーロは槍衾(ファランクス)の如き密な囲みに押し入り、インヴィコとの間に割って入る。


「おい! 一体なんだ、貴様ら。寄ってたかって虐めるのが学舎の誇りになるのか!?」

「デダーロだ」「ぼんぼんが」「気取り屋め」少年たちが口々に汚い言葉を囁く。

「何だ? 言いたいことがあるならはっきり言ってみろ」とデダーロが少年ながら持ち前の鋭い眼光で睨みつけると少年たちは天敵の気配に気づいた被食者のように沈黙を選ぶ。


 ただ大柄な少年だけは少しも臆さず、睨み返して矛先を変える。「正義感はいいけどよ、デダーロ。そいつの虚言癖には何か言わねえのか? 精霊学舎は詐欺師の学校じゃあねえんだぜ?」

「虚言癖?」デダーロはインヴィコに手を貸して立たせた。「そもそも何の話をしていたんだ? インヴィコ」


 幼馴染の友人は俯き、唇を尖らせ、泥のついた服を叩いて、不貞腐れている。


「嘘なんてついてない。見たままを言っただけだ。想像力のない馬鹿に聞かせるべきではなかったかもね」

 再び罵詈雑言の嵐を浴びて、デダーロも怒鳴る。「やめろ! 黙れ! 聞こえんだろう! インヴィコ、いったい何を見たんだ?」

「虹を見たんだ」とインヴィコは呟く。

「虹か。虹くらい見るだろう。雨上がりだ。何がおかしいんだ」とデダーロは不機嫌な少年たちを責める。

「最後まで聞いてやれよ」と呆れたのは大柄な少年だ。

「綺麗な虹だった」インヴィコの声からは感情が読み取れない。

「結構なことだ。綺麗に越したことはないだろう」


 デダーロのこれ見よがしな相槌に少年たちは辟易している。

 そしてインヴィコは目の前に綺麗な虹を見ているかのような喜ばしい笑みを浮かべて顔を上げる。


「虹が落ちるのを見たんだ」とインヴィコが声を弾ませると再び静寂の帳が下りる。


 遠くで流れる増水した川の力強い合唱のようなせせらぎと森を吹き抜ける湿った風の密やかな逢引の如きささやきだけが聞こえる。

 しばしの沈黙ののち、大柄な少年がわざとらしく大声で笑うと取り巻きたちも同調する。


「虹が落ちたんだとよ、お前ら。まるでがきの妄想だぜ。お前のような奴と同じ学舎にいるなんてこっちが恥ずかしくなる」


 インヴィコのそのような話をデダーロは昔から聞いていた。川を泳ぐ幽霊、宝石の中から覗き込む眼、地中から聞こえる歌声。つい先日も鳥の剥製を捕まえたという話を聞いた。どれもこれもが創造性に富むわけではないが、語り口に真実味があり、聞いていて飽きない話ばかりだ。


 デダーロは大柄な少年を見据えて注意する。「いい加減にしろ。貴様らがどう思おうがインヴィコに口出しする権利はない。失せろ」


 少年たちは代わり映えのない悪罵を吐き捨てて、逃げるわけではないと言い訳するようにゆっくりと学舎の方に歩き去っていった。


「珍しいな、インヴィコ。貴様が喧嘩をするなんて」

「喧嘩じゃないよ。勝手に絡んできたんだ。僕は関わりたくなんてなかった」

「何だっていいが。ああいう連中と関わり合いになるのはよすんだな。つまり初めから話さなければ良かったんだ」

「聞いてきたから答えてやっただけさ。連中みたいなのはデダーロと違って探求心がなくて視野が狭くて信じたいことしか信じられないんだ」

「奴らの愚痴は奴らの前で言え。学生寮に戻ろう」


 デダーロは少年たちが去ったほうに足を向けるが、インヴィコが手を引く。


「門限にはまだ早いよ。それより虹を探しに行かない?」

「虹をって、落ちたっていう虹をか?」

「もちろんそうだ。でなきゃ直に見に行けない。まだ去っていないなら、もしかしたら怪我をしているかもしれない」

「待て」南の森の方へ行こうとしたインヴィコを呼び止める。「森遊びなら明日にしよう。丁度いくつか切らした材料を採りに行くつもりだったんだ。蜘蛛の巣の露に夕暮れ茸、あと接ぎ樹液」


 インヴィコは振り返り、疑わし気にデダーロを見つめる。友の鋭い視線が、老練の歩哨が地平を見晴るかすように何かを見逃してはいないかと表情を検めている。


「森遊びじゃないよ、デダーロ。虹を間近で見れる好機なんてそうない。魔法使いを志すなら不思議なものに対する感度を高く持て、と君はいつも言っているじゃないか」

「それはそうだが、インヴィコ以外には誰も見ていないんだろう? そりゃあそうだ。南に虹が見えることはない」

「はあ?」インヴィコの失望した表情をデダーロは初めて見た。「君、僕の話を信じていないのか? 僕の話を真摯に聞いてくれるのは君くらいのものだったのに」

「いや、楽しませてもらっていたが――」

「今までずっと嘘だと思っていたんだ!」


 デダーロに言葉をぶつけるとインヴィコは学生寮の方へと走っていった。デダーロは一つため息をつき、インヴィコを追って学生寮へと帰る。




 その夜、インヴィコとの仲直りは叶わず、デダーロは自室の窓辺で月明りを頼りに虹に関連する書物に目を通していた。確かに虹に関連する逸話や伝説は少なくない。特に雨や洪水、弓や蛇にまつわる記録は数多い。しかし虹が落ちたという話は物語にも見つからない。


 しばらくして月とその祝福たる月光が雲に隠され、読書を終える。窓外の暗闇を見つめ、今までにインヴィコから聞いた話を思い浮かべる。そろそろ寝に就こうと思った時、昨夜に続いて再び雨が降り始めた。初めはしとしとと、次いでぽつぽつと、直ぐにざあざあと強い雨が精霊学舎の古い石造りの学生寮を叩いた。


 ふと窓の外に不思議な明かりが見え、デダーロは目を凝らす。学生寮から何者かが出てきた。身に着けているのは分厚い外套だ。

 手に持った長い柄の先に魔法の明かりを灯している。太陽片と呼ばれる熱を持った黄金色の宝石を触媒にした魔術だ。松明よりも強く輝き、松明と違って光量に偏りがあり、降り注ぐ光の方が明るい。そして何より素晴らしいのは強く照らされた範囲が晴れることだ。


 デダーロは好奇心に手綱を奪われ、同じく外套を身に纏って自室を飛び出し、学生寮から雨の中へ太陽片の明かりを追いかける。


 深い夜の帳を掻き分けるように南の森が這い寄ってきて、太陽片の明かりを飲み込まんと口を開く。

 デダーロは初めから尾行するつもりなどなかった。ただ追いかけて追いついて問い詰めるのだ、何をするつもりなのかを。その後どうするかはその後だ。

 南の森に入る直前に追いつく。それはインヴィコだった。


「インヴィコ、こんな時間に何をするつもりだ?」


 太陽片の明かりの強く照らす外で、雨粒に打たれ、デダーロは目を細める。まるでこちらが問い詰められているかのような惨めな気分になる。


「ああ、デダーロ。虹を探しに行くんだよ。君もついてくる?」

「明日でいいだろう」


 デダーロの言葉でインヴィコは眉を寄せる。


「無駄なことはよせって言わないの? 虹が落ちるはずなんてないんだろう?」

 デダーロは肩をすくませて謝る。「悪かった。信じないと言うんじゃない。ただ、俺は見ていないから態度は保留するんだ。そうだろう? 自分が見ていないものを見たかのようにあると言えば、それはほら吹きだ。貴様が言うのと俺が言うのでは、見た者と見ていない者が同じことを言っても、意味は違うものになる」

「じゃあ、君も見ればいいんだ。それに虹は雨や洪水を呼ぶらしい。この雨がきっとそうだ。大きな被害が出てしまう前に確保したほうがいい」


 そう決意を示すとインヴィコは森の中へと入っていった。

 デダーロはため息をつき、インヴィコを追って太陽片の明かりへと入った。



 川音は遠いが、泥の臭いは漂ってきている。森の闇は様々な鳴き声で語りかけてくるが、二人はまだその言葉を聞き取れるほど魔法使いとして習熟してはいない。


「貴様も虹について調べたのか?」

「いや、調べてないけど、デダーロは調べてくれたの?」


 デダーロは少し照れ臭くなって歩を緩める。


「いずれにしろ虹には詳しくなかったからな。念のためだ。それで? じゃあ何故雨や洪水のことを知っていた? 確保と言ったな。見るばかりで見るだけの貴様らしくない。それにその恰好だ。太陽片の明かりもそこそこ準備がいる。降り始めた矢先だったのに、まるで雨が降ることを予め知っていたかのようだ」

「話したってどうせ信じないよ」とインヴィコは不貞腐れる。

「相手が信じるかどうかと貴様の見たものは無関係だろう」


 初めは慣れなかったインヴィコのいつもとは違う態度だったが、デダーロは調子を取り戻す。


「なら私が代わりに話そうか?」とインヴィコが尋ねた。「変に思われるだけだから黙っててよ」とインヴィコが苦言を呈した。「良いじゃないか。信じてくれても信じてくれなくても、変に思われても変に思われなくても、デダーロ君だったか、彼は君と友達でいてくれると思うがね」

「どうした? インヴィコ、何を言っている?」


 いよいよ怪しい態度になってきたインヴィコの背中を凝視してデダーロは警戒する。


「初めまして」インヴィコが振り返って空いている方の手を差し出す。「私は報せる者(アブステル)。つい先日、君と同じくインヴィコの友人になった者だ」

「魔性憑きか何かになったと、そう言いたいのか?」とデダーロは何の変哲もないことを確かめるようにインヴィコの手のひらを見つめながら訊いた。

「まあ、そんなところだ」インヴィコは手を引っ込める。「信じてはくれないのかな?」

「言葉だけではな。面白い話だとは思うが」

「それでいいさ。信じさせる方法はなくもないが、私は特にそれを必要としていない」


 再びインヴィコは魔法に照らされて乾く地面を歩き始め、デダーロは雨の中に放り出されないように背中を追う。


「それで? 何のためにインヴィコに憑いたんだ?」

「信じないんじゃなかったの?」今度はインヴィコ自身の言葉らしかった。

「面白そうだからな」


 インヴィコが豪快に笑う。インヴィコらしくないそれはアブステルの笑いなのだろう。


「いいさ。話しても何も困らない。私は魔法使いでね。特に天象気象を専門としているんだ。空のことなら大概のことは把握しているつもりだが、最近アムゴニムで異常気象を何度か観測してね。その原因がかの虹だと推測している」

「じゃあこの雨を何とかしてくれないか?」とデダーロは注文する。

「ある程度は可能だが」アブステルは含み笑いをする。「どこまで対抗できるかは分からないな。何より虹に感づかれるわけにはいかないのでね」

「感づくのか、虹が」

「そうさ。感づいて、逃げる。だから虹を追って、ミアティラまでやってきて、インヴィコに出会った、というわけだ」

「そうして利用している」

「信じてくれるのかい?」


 デダーロは否定するように鼻を鳴らす。

 幼い頃から聞いていたインヴィコの話してきた物語と少し毛色の違いを感じた。因果関係を詳細に話す割に、大事なことは隠しているように聞こえた。少なくとも今までのインヴィコは、それが自分の他に誰も見ていないことでも、隠さず正直に話している風だった。

 改めて背筋を何か冷たいものが這い登るような微かな怖気を感じた。

 本当に何者かがインヴィコに取り憑いているように、デダーロは思え始めていた。


「虹を確保してどうするんだ?」

「もちろん研究する。君らとて魔法使いの卵ならやるべきことは同じだろう?」

「インヴィコへの報酬は?」

「悪いが何も持っていない。虹を見つけたとして分け与えることもできない。どうしてもと言うなら、私は飛んで逃げる」

「酷い奴だな」とデダーロは責める。


「あれは貰えないの?」と口にしたらしいのはインヴィコだ。「ほら、アブステルさんが取り憑いていた頭青花鶏(ずあおあとり)の剥製」

「ああ、まあ構わないよ」今度はアブステルだ。「虹を見つけたならくれてやろう。約束だ。まあ、私なら魔法使いの卵からとんずらすることもできるが信じてくれ」

「信じてほしかったら余計なことを言う癖を改めるんだな」とデダーロは諭す。

「違いない……。ん? 川の音か?」


 アブステルの言う通り、川の流れる激しい音が聞こえる。この豪雨で水量の増した川が荒れ狂っているのだ。


「方向を変えるか? そもそもどこら辺に落ちたんだ?」


 そう尋ねてから、もうほとんど信じているようなものだ、とデダーロは心の中で自嘲する。


「ああ、いや、待て。見ろ。あそこだ」


 アブステルかインヴィコが指さした方向でまさに泥水が激しく唸りながら流れており、川中に佇む大きな岩に何か煌めくものが引っ掛かっていた。それは遠目にも七色に輝いており、とても長い。弧状にはなっておらず、踏み付けにされた敵軍旗のように力なく揺らめき、今にも川に流されそうだ。

 それが虹かどうかは分からない。しかしそれは虹のように見える。それを虹だと思い、虹が落ちたと表現することは決して嘘でもほら話でもないはずだ。


「すまない、インヴィコ。俺が悪かった。許してくれ」

 デダーロが心から謝罪するとインヴィコが手を差し出す。「僕の方こそ、悪かったよ。君が無条件に信じてくれるだなんていう思い込みは甘えだった。ただ僕は君に嘘をついたことなんて一度だってないんだ。それを信じてほしかった」

「ああ、信じるさ。貴様のこれまでの話も全て検証しようじゃないか。きっと大きな発見があるに違いない。それじゃあ帰ろうか」


「待て待て待て!」アブステルが大袈裟に地団太を踏み、両手を広げて虹らしきものを指し示す。「まだ虹を手に入れていないだろう」

「そうは言うが、どうするんだ? 俺もインヴィコも激流をどうにかする魔術など使えないぞ。今できることと言えば太陽片の明かりで狭い範囲を晴らすくらいだ」

「なら、そうするしかない。見ろ」アブステルが岩を指さす。「川面から顔を出してる岩がいくつかある。飛び移っていくんだ」

「危ないだろう。せめて雨がやんで川が静まるのを待て」

「いや、このままでは流されかねない。流されれば私は追わねばならない。今ここで手に入れる」デダーロがインヴィコの腕を取ろうとするとするりと避けられる。「悪いがインヴィコの体は私の思いのままだ。手ぶらで帰るという選択肢はないぞ」

「酷い奴だ」


「何とでも言え。これは私の使命なのだ」

「分かった。それなら俺が行く」

「いや、僕が――」

「まあ待て。お前は太陽片の明かりで照らしてくれ。岩を乾燥させるくらいはできるはずだ。それとも俺が太陽片の明かりの魔術を準備する時間を待ってくれるのか?」

「待てない」と断言したのはアブステルだ。

「決まりだ」


 仮初の陽光に照らされた場所は晴れる。雨は降らず、雨に濡れていた地面もまた晴れた日の地面へと変じる。

 デダーロは喚くように流れる濁った川と誘い込むように点在する岩場を見つめる。助走は一度きり、足を止めれば次の岩には跳び移れない。一息に虹の袂へと飛び移って行かなくてはならない。

 深く息を吸い込み、恐慌状態の群衆の如き濁流に目がけて力の限り走る。太陽片の明かりの照らす範囲は松明に比べて狭いが竿の如き柄は十分な長さだ。デダーロの進む先は晴れている。

 跳躍。一つ目の岩に飛び移ると勢いを殺すことなく次へと跳ぶ。二つ目、三つ目、そして最後の大岩へ。岩の滑りに足をとられかけるが、何とか堪える。


 虹色の何かは相変わらず大岩に引っかかっている。デダーロは息をのんで陽光に煌めく虹に触れた。七色に煌めくそれは薄く、中身は中空だ。それは虹の抜け殻に違いなかった。虹そのものではないが、これが脱げ落ちたのをインヴィコは目にしたのだろう。

 持ち上げてみると長い両端は川に流されていて、大岩から外せばそのまま全部流れてしまうことだろう。むしろこの重量ならばこのまま引っ掛けておけば流される心配などないはずだ。

 徒労感で深く息をつき、インヴィコたちにその旨を伝える。どちらにしてもこれを運ぶなど土台無理な話だ。


 インヴィコが大きく手を振り、何かを叫んでいる。それなのに声は聞こえなかった。上流の方を指さしている。デダーロがそちらを見ると愚かな子供を押し流さんと夜闇の奥から大水が迫っていた。上流で川を堰き止めていた何かが決壊したのだ。


 デダーロは岩にしがみつく。悪あがきだろうが、他にできることはない。

 川を離れるインヴィコの背中が見える。が、なぜか振り返り、太陽片の明かりをその場に放り捨て、こちらへ走ってくる。止める暇などない。次々に岩を渡り、とうとうデダーロのしがみつく岩に跳び移った。


 驚きすぎて咎める言葉も思いつかないデダーロを尻目にインヴィコは脇腹から何かを剥がし、虹の抜け殻に貼り付けた。

 すると虹が身じろぎをし、岩の周りに蜷局(とぐろ)を巻いた。


 何が何だか分からないなりに、水を防いでくれるのか、とデダーロが思った矢先、虹はやってきた方向とは反対の川岸に泳ぎ、森の奥へと蛇行していく。七色に輝く長い体が次々に川から上がり、森の中へ消えていく。


「おい! どこに行くんだ!?」とデダーロが叫ぶ。

「まあ、助かったんだからいいじゃないか」とインヴィコが暢気に言った。


 はっと気づき、上流を見るとすぐそこに迫っていた大水が呼びかけられた忠実な猟犬のように虹を追って脇に逸れていた。


「これが虹の、虹の抜け殻の力ってことか?」とデダーロは力なく呟く。

「雨や洪水に関わる伝説が沢山あるらしいよ」


 インヴィコはほっと溜息をつき、大粒の雨を全身で浴びるように大岩に寝転んだ。

 デダーロも自分の体が恐怖で震えていることに気づき、身を労わるように大岩に座り込む。


 インヴィコが楽しそうに話す。「今夜、とんでもない冒険をしたんだけど信じてくれるかな?」

「俺なら信じないな」

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