Episode.0
(カーテンに遮られ、光は薄暗く横顔を照らすばかり。使われた跡がない無機質な台所に、セピア色の仄明かりだけが満ちている)
私は少し怖くなって、彼女から目を逸らした。そうする必要はまるで無かったのだが、彼女の矮躯から溢れ出す収まり切らない幼性が、私の罪深さをこの上なく刺激するのだ。
しかし、私の思いとは裏腹に、彼女はその細い腕を、何かを求めるように私の方へ突き出してくる。
──いけない、と咄嗟にそう思った。思えたことが奇跡だろう。
出来ればその手を取って、此方へと引っ張ってやりたかった。むしろ彼女は、そうすることを望んでいるのではないだろうかと。
白く滑らかな指たちが、私の頬を撫ぜる。冷たい親指は肉の内側に食い込んで、残る四本は艶やかに……。ひゅる、ひゅるるん、と鼻筋を通り口元へ運ばれてゆく。
彼女の目を見られなかった。何を思っているのだろうか──そんなことは最早どうでもよく、ただこの身を焦がすような激しい熱を、深い所へ追いやってしまいたいのだ。
「ないです、なんにも」
ああ、こんな一人の夜に おそろしい。