底辺はその剣を振りかざす
私とスケアリーは王都に向かうために馬を走らせていた。
スケアリーは少し時間がかかるが体温を下げることは可能のようで馬には一応乗れるらしい。あと、エーデルさんに貴族殺しに加担すると告げると、どんな貴族かは聞かれたが許可を得た。
どうやら前々から標的にはなっていたらしい。
「それで、復讐に向けての算段はどうする?」
「その点については考えがある。一度王都の目の前で馬を止めて、私の馬を出来るだけ私から遠ざけて」
「わかった」
王都の近くの平原に来た。
私たちは止まり、私は馬を降りる。そして、スケアリーが私の馬を連れて遠くへ向かった。
私は距離が離れたというのを確認するとハイドを呼び出した。
「よう、ハイド」
「ガル」
「頼みがあるんだ」
「ガル?」
なんだという顔をしている。
「人を殺さない程度にこの付近で暴れて欲しい。できる? もちろん人間から攻撃してきたら仕返していい」
「ガル」
「お、いい返事。また聖域に行くからな。頼んだぞ。やりすぎんなよ」
私はハイドから離れると、ハイドは王都の門を殴っていた。
そして、煩い遠吠え。門番が何事だ!と出てくるや否や驚き戸惑っている。私は走ってスケアリーのとこに向かう。
「よし、いくぞ」
「あれはジキルタイガーか? なぜお前が…」
「ま、後で説明するからいかないと。ね?」
私たちは騒ぎに乗じて王都の中に入っていく。
王都の人はみんな門の方を向き、何事かと騒いでいる。
私たちは急いで王城に向かう。兵士がどんどんすれ違う。王門の目の前には兵士が二人立っていた。
「ごめん、通して」
「こ、これはっ! はい! かしこまりました!」
「これ私の連れ。名前は…スキャリー」
「…スキャリーだ」
「はい、わかりました。どうぞ!」
私たちは謁見の間にいく。
王は慌てふためいて指示を出していた。王は私をみるとちょうどよかったと言わんばかりに駆け寄っていた。
「契約者殿! ジキルタイガーが暴れているそうなのですがなにがあったんですか!?」
「いやー、私がハイドにあの宰相の息子に絡まれたこと愚痴ったら許せないって暴れだしちゃいまして」
「な、なんと…」
「ま、形式的に私に謝罪して欲しいんですよ。もちろん、親である宰相もね?」
というと、王は宰相を呼べと指示を出す。
数分後恐る恐るというように宰相は入ってきた。
「ま、誠に申し訳…」
「はい、スケアリー。連れてきたよ」
「あぁ、助かる」
スケアリーは私の後ろから出てくる。宰相は頭を上げると顔を青ざめさせていった。
「よう。しばらくぶりだな。ホワイハッツ」
「…は、犯罪者がなにを! 何しに来た!」
「犯罪? おいおい。あんたがしたことは犯罪じゃないのか?」
「さ、宰相? どうした? それにお前は…」
「王よ。久しぶりだな。俺を覚えているだろう?」
スケアリーの登場で全員固まっていた。
「まさか…契約者! お前はッ!」
「手を組んだ。こいつは機会を設けてくれると言ったからな」
「…契約者殿。もしかして」
「ごめんなさい。人は殺さないようには言ってあるから大丈夫だとは思うけど…」
王はため息をついた。
「それでスケアリー。今更なんのようだ?」
「なんのようかって? 俺は復讐に来た」
「宰相にか?」
「あぁ。俺はこいつには恨みがあるんでね」
スケアリーはレイピアを取り出す。
「王は三年前のスケアリーの父が死んだ真実を知ってますか」
「…いや。実行犯もスケアリーに指示されたの一点張りでな。真相はわからない。証拠がないのだ」
なるほど。人の口は幾らでも嘘をつけるからな。
「本来貴族殺しは重罪で死刑…もちろん企てたやつもなんだが、どうも私はスケアリーが犯人とは思えなかった。だからこそ追放という形にしたが…」
「王よ、この犯罪者を信じるのですか?」
「当たり前だ。もとより、お前を信じることはできなかった。今期限りで宰相を辞めさせるつもりではいたからな」
王はスケアリーを見る。
「スケアリー。真相を私に教えてくれ」
「…こいつが犯人だ。俺から何もかも奪いやがった!」
スケアリーはレイピアを振りかざす。
「これが底辺の血の味だ!」
と、スケアリーはレイピアを宰相の胸に突き刺した。
宰相は口から血を吐く。そのまま、倒れ息を引き取った。
「このような場で人殺しをしてすまない。俺の目的は達成した。俺を捕まえて処刑するなりなんなりしろ。俺は犯罪者だ」
スケアリーはレイピアを投げ、地面に座る。それはもう何をするつもりもないということのようだ。
王はため息をついた。
「スケアリーは復讐をした。それの何が悪い。やられたままで泣き寝入りは辛い。当然の行為だ。罰は回り回ってやってくるもの。なにも処罰は与えんよ」
「…いや、貴族を殺した。こんな奴でも貴族だ」
「なぁに。犯罪者が貴族な訳ない。死体は私が処理しておく。ま、一つ文句を言うなら場所は選ぶべきだったな」
王は笑っていた。
スケアリーは立ち上がり、傅く。
「ありがとうございます」
「…ところでスケアリーよ」
「なんでしょう」
「もう、この王都に戻ってくるつもりはないか? 騎士として雇いたい」
「…それで王への贖罪が出来るのなら」
「わかった。言っておこう」
んー、もう私はいらないかな。
私は扉の方に向かう。
「じゃ、私はこれで。迷惑かけてすいませんでした」
「ああ」
私は扉を開けて出ようとすると。
「待て! ミーミル!」
と、スケアリーが呼び止めてきた。
スケアリーはこちらに近づいてくる。
「感謝するぞ。俺の復讐は終わった。お前を一生忘れないだろう。そして、出会いの時襲ったりなぞして悪かった」
「いいよいいよ。それじゃね」
私は謁見の間から出ていき、郊外に向かう。
兵士が盾を構えている。口でなんとか説得しているがハイドは止めていない。
「ハイドー、もういいよー」
「ガル」
ハイドは攻撃をやめ、私を背中に乗せる。
「ほんと、迷惑かけてすんませんした」
私はハイドの背にまたがり始まりの街へ帰ることになった。




