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アンダーワールドクロニクル  作者: 鳩胸 ぽっぽ
王と私たち、王都と始まりの街
83/442

正義のヒーロー

 フルムーン・パレスとの一件が終わり翌日。

 私たちは王都を散策していた。王都はいつもと変わらず賑わっていた。

 

「この僕ちんに逆らうっていうの? 平民の分際で!」


 という声が聞こえてくる。

 私は人混みをかき分け割り込むと太った男の子が少女を踏んづけている。

 少女は目から涙を流し、男はそれをみて笑っている。


「ちっ、助けてやるか」


 私はナイフを投げる。

 男の腹に突き刺さり、騎士がその男を取り囲む。


「な、なにもんだ!」

「いやぁ、正義の味方ですよ」

「や、やれ! 僕ちんを殺そうとしたんだ! やっちまえ!」


 と、騎士が剣を構えて斬りかかる。

 私は右手だけをジキルタイガーの手に変え、騎士の鎧ごと斬り裂いた。

 騎士たちの血が地面を伝っていく。騎士がいなくなり、小太りの男だけが残された。


「や、やめろ! い、いいのか? 僕ちんに手を出したらパピーが黙ってないぞ!」

「そんなの関係ない。いいのか? 私に逆らうと王様が黙ってないぞ」


 私はナイフを構え、男に近づいていく。

 男の至近距離に近づいた。私はお腹からナイフを引っこ抜き腰に提げる。

 私は男を足で踏みつけた。男は呻き声をあげ、お腹をおさえる。


 私は少女に近づいていった。


「大丈夫かい?」

「は、はい…。ありがとう、ございます…」

「何があったの?」

「ただ、横切っただけなんです」


 なるほど、横暴貴族ということか。


「そう。不運だったね。もう行っていいよ。あとは私がなんとかするから」


 そういうと一目散に少女は逃げていった。

 それと同時に騒ぎを聞きつけた兵士たちが私の身柄を確保する。

 後悔はない。ま、すぐに逃げ出すさ…。








 私は王城の謁見の間に連れて行かれた。

 どうやら手を出したのは宰相の息子で殺しかけたということで重罪になる…というものだ。

 私は縄で縛られ王と謁見した。


「君が私の息子を…しでかした事の重さはわかっていますね?」

「……」


 私はニヤリと笑う。

 

「何を笑って…!」

「いいの? 私を殺すの? でも、いいのかなぁ〜。私は奥の手があるよ。私には神獣の味方がいる」

「なにを…?」


 私は変身させた右手の爪でロープを切り裂き、解放される。

 私は変身を解き右手を王に見せた。王はたちまち顔色を変えていく。


「今ここで召喚してあげてもいいんですよ」

「なにを召喚だと?」

「…わかった。もうよい。帰ってよい」

「いいんですか?」

「なにを言う王よ! 我が息子が怪我をさせられたのですよ!? 平民が貴族に暴行を加えるなど…」

「今回はそちらにも非がある。横切っただけで暴力を振るったではないか。貴族だとしても人に暴力を振るうのはまずいけんなぁ」


 と、王は髭をさすりながらそう言っていた。


「貴族が平民に逆らうのは悪くない。貴族に不満を持たせた貴族が悪い。悪いのは統治者。私が悪い」


 と、王がそう言い、宰相に退室を促した。宰相は嫌々でていった。

 私と見守りの騎士たちだけがこの間に取り残される。


「ジキルタイガーの契約者殿に手を煩わせてしまい申し訳ない」

「あっ、いえ…。私も暴力を振るい申し訳ございません…」

「仕方ないとわかっている。仕方のない暴力だと理解している。すまない」


 と、なんだか謝りの応酬が続きそうなのでやめた。

 私は神獣について改めて聞いてみることにした。アレクから神獣はこの国にとっても大事な存在だとは聞いているがここまで丁重に扱われるほどなのだろうか、と。


「神獣…。神獣は神が遣わした人間を守る存在だと言われておる。人間を守り人間と暮らす生き物…。だが、ある日を境に人間は神獣に対する畏怖と尊敬を忘れてしまった…。それに神獣たちは怒り、人間を守らなくなり攻撃し始めることになった…」


 そう言う話を聞いて少し合点がいった。

 契約者を大切にするのはその神獣と人間が再び共存する掛け橋となるからだ。

 私だけがハイドと話し合いができる唯一の人物だからだ。


「じゃあ、私はジキルタイガーと人間をつなげる掛け橋みたいなもんか…」

「その通り。我々人間は過去を悔いている。神獣と再び友好的な関係を持ちたい、と思っている」

「だから今わかっている契約者の私を大切に…」


 アレクはこの国のためにいて欲しいと願った。

 王は人間のためにいて欲しいと願った。器の差だな。これは。

 私はニヤニヤしながら聴いていると、扉が開かれる。


「パパ上ー!」


 と、小さい女の子が入ってきた。とてとてと走って王のところに向かっていく。

 王は慌てて出て行かせようとしたが、そんな強くは出られないようで「あの、お父さん仕事中だから…」と優しい声音だった。


 パパってこう言うもんなんだな。王様でも…。


「いや、いいですよいても…。名前なんて言うんですか?」

「アイリス、とアレクが名付けた」

「アイリスさん。可愛いですね」

「そうだろう!? この愛くるしい瞳、ああ、生まれてきたことを感謝いたします…」

「……」

「パパ上くさーい」

「なっ…!?」


 王は膝から崩れ落ちた。

 そのまま地面に寝そべり「臭い…臭い…」とぶつぶつ呟いている。

 アイリスはその王の背にまたがった。


「おうまさーん!」


 というと王は四つん這いになりひひーんと鳴き真似をした。

 

「王の威厳もクソもないな…」


 私はそう呟くと周りの騎士さんたちもうんうんとうなずいていた。

 王よりもアイリスさんが偉い。なんつーか、親バカっつーか。


「…あのー」

「…待ってくれ。娘がお馬さんごっこをして欲しいそうだから少しだけ」

「それでいいのか王よ…。私はいいんだけど」


 私はお馬さんごっこが終わるのを待とうとしたが。

 私は女の子に近づいていく。


「アイリスちゃん。はじめまして」

「はじめましてー!」

「私ミーミルっていうんだ。よろしくね」

「よろしくー!」

「今お姉ちゃんが大事な話してるから後にしよっか」

「えー! 今パパと遊びたいのー!」

「んー」


 私はコインを取り出す。


「アイリスちゃん。ここにコインがあります」

「おかね!」

「そう、お金。このコインを右手で握ります」


 私は袖の中にコインを落とす。

 そして、私は手を広げた。


「はい、コインがなくなっちゃいました!」

「えぇ〜!? どうなってんの!?」

「コインはどこいったのかなー? 知りたいならパパと話させて?」


 というとアイリスちゃんは王の上から降りた。


「はい、降りた!」

「偉い偉い。じゃ、コインをまた戻してみるね〜」


 私はあらかじめ握っておいた左の手を広げる。


「しゅんかんいどーした!」

「あはは。はい、不思議でしょ?」

「うん! もっとみたい!」

「後で見せてあげるから今大事なお話するんだ。いい子で待っててね」

「うん!」


 と、とてとてと外に出ていった。


「す、すまない…」

「今はああいう無邪気さっていいと思いますよ。大人になってくるとやっぱり汚いところとか見なくちゃいけませんしね。貴族とか特に」

「そうだな…。そうなんだよな…」


 どうやらそれは悩みのタネのようだ。


「貴族制、やはり廃止すべきなのだろうか…」


 と、王は悩んでいた。





















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いずれ王となる君に~部下である剣士の私はその才能をゲームでも発揮します~
新作です。VRMMOものです。
読んでもらえると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世のお父さんは娘に甘い。 それは、王様でも同じ事。
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