木戸くんとデート ④
バッシュを買い終え、昼になる。
お腹が空いてきたな。さっき動いたからな。腹が減ると人間誰も弱くなるものだ。国籍や人種関係なく…。
「何にしよっかなー」
私はメニュー表を広げる。
ここは木戸くんの伯父さんがやってるというラーメン屋。ラーメン以外にも炒飯、チャーシュー丼とかもやってるし、秋の始まりの9月といえどまだ暑いから冷やしラーメンもある。
「なんつーか、すまんな。ほんとはもっと洒落た店に連れてくべきなんだが…」
「いいよいいよ。ラーメン好きだし」
「ラーメンはデートに向かねーからな。リュウ」
伯父さんが笑いながらお冷を置いた。
「ここってこってり? あっさり?」
「こってりだな」
「よし! 動いたあとだからガツンとしたものが良かったんだよなー。カロリー高いものほど美味い!」
「ヘルシーでも美味しいのはあると思うが…」
私はメニューを決めた。
「豚骨ラーメン大盛りアブラオオメに、ギョーザにライス!」
「嬢ちゃん結構食うな。残しても知らねーぞ?」
「俺塩ラーメンでいいわ」
「女の子は食うのにリュウは相変わらずだな」
「そんなに食えるかよ…」
大将は厨房に戻っていきラーメンを作り始める。
昼時だからかたくさん人が入ってくる。人気店なんだなーなんて思いながらもラーメンが来るのを待っていた。
「ラーメンってさー、コショウいれる?」
「んー、俺は醤油ラーメンの時は入れるかな。塩とか豚骨はそのまま楽しみたいしな」
「ほえー。じゃあ味噌ラーメンにバターは?」
「バターはたまに入れるぐらいか。コーンとか乗せると美味いんだ。コーンはそのままじゃなく一度バターで炒めて乗せるんだよ。美味いぞ」
「なにそれ今度やってみよ」
料理ができない私だが炒めるくらいは多分できるだろう。
と、一人の男性が話しかけてきた。
「おー、リュウ。可愛い子連れてきてんじゃねえの」
「後藤さん…」
「ゴトウ?」
「この店の常連。大企業の偉い人なんだけどなぜかここに来るんだ」
「俺はなぁー、ラーメンが死ぬほど好きでなあー。小せえ頃からこの店の味で育ってきたから忘れられねーってもんよ。で、リュウ。彼女とはどこまで進んでんだ?」
「彼女じゃないですって。買い物に付き合ってもらってるだけっす」
「ちぇー、リュウにも春が来たかと期待したんだがよー」
おじさんは笑いながら去っていった。
それにしても木戸くんはこの店の常連事情に詳しいんだなー。
そう言った目で見てると気づいたのか苦笑いを浮かべる。
「夏休みとか冬休みとか暇な時はここでバイトしてるからな。意外と楽しいんだぜ」
「ほえー」
「お、リューくんじゃーん」
と、今度は若い女性が声をかけてくる。
「雪菜さん。こんちゃっす」
「今日は彼女連れ? ラーメンなんかに連れてきたら印象下がるよー?」
「ラーメンなんかとはなんだ安藤さん。ほれ、嬢ちゃん。豚骨ラーメン大盛りアブラオオメ、ライスにギョーザだ!」
と、大盛りのラーメンが出される。
店の人の視線を一気に集めた気がする。目の前の女の人も少し引いている。
私はヘアゴムで髪をまとめあげ、割り箸を割る。
「いただきまーす!」
私はまずレンゲでスープを飲む。
おおう、胃にくるような脂のギトギト。重いパンチ。だが、耐える!
私は麺を啜る。啜るってのは音を立てるんだけど音は立てない…。流石にまだそのマナーには慣れない。
「おうっ、アブラがすげえ! 重いパンチが何発も来る感じ…。これは一種の試練だな」
「リュウくんこんな大食いの子と付き合ってんの…」
「いや、付き合ってはないんすけど…」
「私だったらこの脂の量は無理だわー…。スープ少し飲んだらギブしそう」
「見てるだけで少し胃もたれしてきたぞ」
ラーメンを食べ終わった。
スープ全部飲み干したとき、周りはみーんな私を見ていたようなきがする。
「アテナさん、大丈夫? 胃もたれとか…」
「ん? 大丈夫よ。私はこの程度でヘコたれないさ。脂を一気飲みしたら流石にキツいかもだけど」
多分オリーブオイルならいけそう。
「あーあ。お嬢ちゃんのせいで他の客ダウンしちまった」
「え?」
辺りを見渡してみると苦しそうに項垂れる男たちがいた。
「負けじと豚骨ラーメンアブラオオメを頼みやがって…。まだ昼だろうに」
「会社行きたくねー…」
「後藤さんも伸びてる…。無茶しなきゃよかったのに」
「お嬢ちゃんが食べれるのに俺が食べれないってのはだせーだろ…。くっ、俺はここまでのようだ。体調が優れないっていって俺は帰る…」
「俺休ませてもらえないっすよ…。無茶しなきゃよかった…」
なんだろう。馬鹿ばかりだな。
私は席から立ち上がり、一人の男の人に駆け寄る。私は髪をかき揚げ、声をかけた。
「お仕事…頑張ってください!」
「頑張る! 大将! 勘定!」
私の精一杯のキューティクルボイスを出す。ウインクもして。
男の人は元気が出たのか走って行ってしまった。
「男って単純だからな」
「リュウくん。この子すげー小悪魔だよ…」
「あ、ああ。手玉に取られそうだ俺も…」
「大将ー! 私も勘定ー!」
私は会計を済まし、木戸くんを連れて外に出たのだった。
作者ラーメンあまり好きじゃない人間
インスタントラーメンは好き




