木戸くんとデート ①
土曜日。
私は駅前で人を待っていた。約束があるからな。私はスマホの時計を見つつその人物が来るのを待つ。
待たせるとはいい度胸だ…と言いたいが私が早く来すぎたのが原因なので責めるつもりはない。
ただ待ち合わせは苦手なんだよなー。視線を感じるから。きょろきょろしてると迷子の外国人だと思われて英語で話しかけられることもある。
だからきょろきょろしないでスマホをいじっているのが最適解です。
「す、すまない。遅れた…」
「いや、ちょうど時間ぴったし…。1分のずれもないし1秒のずれもなく…すげー正確だな」
「ほ、褒められてるのか?」
「褒めてる褒めてる。で、何買いに行くんだ? 私は買いたいものとか特にないから付き合うぞ」
私は服装とかもあまりこだわらないしな。欲しいものは既に買ったばかりだし特にない。
「バスケのシューズとか…。昨日ダメにしたんだ」
「バッシュねー。ま、あんだけ派手に動くんだからダメになりそうだな」
私はバスケはあまりしたことないんだよな。
バスケはやっぱりアメリカなんだよ。
「そ、そうだ。あ、あとふ、服可愛いな…」
「唐突な話の路線変更。ま、一応コーディネートはしてきたからね。で、木戸くんのTシャツなにそれ。笑うんだけど…」
「英語ロゴのやつそんなに変な意味か…? 調べたことはないが…」
「私はいい赤ちゃんを作りますっていう感じの意味だよ…」
そういうと、木戸くんは顔を赤くした。
前々から思ってたんだけど日本の英語ロゴが入ったTシャツってかっこいい言葉もそりゃあるんだけど変な意味なのも多いからね。
地球のイラストが描いてあって”The World”って書かれてるのは別にいいけどいい小便とか書かれてると笑いそうになるんだ。
「ふ、ふふ、服屋も行こう!」
「いいんだよ。他にもそんな意味のTシャツ着てる人ちらほらいるし…。外国人じゃなかったら笑わないから」
「外国人のアテナさんは笑ったじゃんかよ…」
「まあ私はね? 意味が理解できる分面白いってことよ」
意味が分かると面白いのだ。
英語ロゴって無駄にかっこいいと思ってそうだからな。変な意味でもかっこいいイニシャルならいいのかもしれないな。
せめてかっこいい言葉にしてやれよ。言葉じゃないんだよ。意味を持たせろ。
「ま、いこっか。まずはスポーツ店? バッシュ買うなら」
「服屋に行こう」
「でも目的ってバッシュ…」
「服屋だ。まず服屋でいい服をたくさん買う。お金はたくさん持って来てあるし今日は奢るよ」
「いいんすか。あざます」
「気にするな」
それにしても服屋に行きたがるってよほど恥ずかしいのかな。
「ここにゃ私以外外国人いなさそうだし別に着たままでもいいと思うよ?」
「…その、アテナさんにだけわかられても恥ずかしい」
「気にするな。外国だって変な日本語Tシャツ着てる人だっているだろ? 私だって越してきた時には変な日本語Tシャツ着てたんだから」
「どんなのだ?」
「背中に相談窓口って書かれたやつよ。そんときゃ日本語まだ全然わからないときだったし知らずに着てたんだ。あれ絶対笑われるよ…。あのTシャツだけはもう着たくない…」
周りが日本人だから私が読めなくて周りが読めるって感じだったからな。寧ろ大勢に笑われてる私のほうが恥ずかしいのだ。
「アテナさんもそんなことがあったんだな」
「今でこそ慣れてるけど昔は日本のことなんて全然知らなかったんだからしょうがない」
「ま、そうだろうな。日本語は難しいからな」
「そうそう。漢字だけでもむずいのにひらがなとかカタカナとかわかるかよ。てにをはの使い方とかもあるし文法もたくさんあるから困る」
「日本国民の俺ですらもあまりできないからな。日本人ができないのに外国人ができるわけがないだろうな」
「そりゃそうだ」
現地の人だって使いこなせる人はあまりいないだろうしな。
「まあここで駄弁ってたら時間すぎちゃうしそろそろ行こうか。デートだから手でもつなぐ?」
私はニヤニヤしながら言うと木戸くんは顔を一気に赤くした。
「い、いやいい。そういうのは付き合う人とするもんだ」
「意外と純粋だな」
ま、いい思い出になるだろうし繋いでやろっと。
私は木戸くんの手を握り、服屋に向かうのだった。




