監獄で何かが起きようとしている?
早いところあの神様を討伐したいが三人の準備が終わってないので私はアニキスと一緒に監獄を見に行くことにした。
「脱走しなかった死刑囚もいるのかね?」
「いる。あの時は混乱に乗じて脱獄しただけだが逃げ遅れて捕まったままの奴もいるさ」
石造りの階段を下りながら私たちはそう会話していた。
なぜ牢獄に来たのか。それは王に頼まれていたから。牢獄で何か良からぬことを企むやつがいるということ。
多分殺された脱獄囚の一人でアニキスはきっと逃げ遅れた囚人たちを一斉に脱獄させ混乱を招こうとする魂胆だと推測していた。
「それにしてもアニキスよくこれたね。もう捕まることはないとはいえもと脱獄囚だからいい目で見られないでしょ」
「そうだがな。仮に逃げるとしたら構造を知ってる俺がいたほうがいいだろう。それに、犯人が逃げた先も俺ならわかる」
そういって私たちは死刑囚が収監されている階層にきた。
死刑囚でもほかの囚人と一緒の牢に入れられてるっぽく喧嘩してるような声も聞こえてくる。私は足音を鳴らしながら歩いていた。
「何の因果かねぇ。ようこそ。元死刑囚さん」
「誰だ?」
階段を下りてちょっと歩いた先に看守服を着た男が帽子を脱いで立っていた。
「ウラン看守長から変わったのか?」
「ああ。ウラン看守長はお前らが脱獄した責任を背負わされ辞めさせられた。今はヴァルターシュ伯の次男である俺、ヘルト・ヴァルターシュが看守を務めてる」
「ほう。前の看守長とは違ってずいぶんと緩そうだな」
「おいおい。これでも俺は正義感あふれてるんだぜ? お前を嫌ってるほどにはな」
「そうかい。まぁいいさ。王から俺らのことは聞いてんだろう? 死刑囚たちを脱獄させないために来たわけだ」
そういってアニキスは握手しようと手を差し出す。
ふっと笑ってヘルト看守長も手を出した。目でばちばちと視線を交差させながら。手を離す。
「ところで看守長。その右手どうしたんですか? 包帯を巻いてますが」
「いや、つい先日料理をしようとしたらフライパンに手をついてやけどしてしまってな。療養のために包帯を巻いてる」
「ずいぶんとおっちょこちょいなんですね。それで看守は務まるんですか?」
「仕事じゃドジは踏まねえよ。俺はやることあるからお前ら頼んだぞ」
そういって奥へと消えていくヘルト看守。
「ったく、この俺をだませると思ってるのか」
と、アニキスは近くにあった椅子に座る。
「だます?」
「俺と同房にいた囚人にツァイルっていう変装がうまいやついた。きっとそいつだろう」
「え、なんでわかるの?」
「あの男握手の際に怪我してるほうの手で帽子を持っていたから、あと包帯の巻き方がちょっと甘い」
アニキスは笑う。
「普通は怪我したほうの手で持とうとはしないだろう。帽子なら頭にかぶることもできたはずだぜ。それなのに怪我してるほうの手で持つということはそういうことだ。あと、包帯の巻きが甘い。あれは一人で巻いたもんだからだろうな。片手で包帯を巻くのはきつい。あんなひどいぐらいまかれているとなると火傷も相当ひどいもんだろう? なら普通医者にいって医者に巻いてもらうはずだ。あれは医者に行ってねえ」
「ほえー」
「ツァイルは変装がうまいが変装したところで演技は人並みだ。詐欺師の俺を欺こうなんざいいい度胸しやがる」
といって笑う。
「でもそれだけじゃ具体的な証拠にならないんじゃない?」
「そうだな。だが、俺はある事実を知ってるからな」
「ある事実?」
「俺は詐欺師だ。詐欺師ごときが普通死刑囚になるか?」
「あー、ならないかな?」
「俺は貴族をカモにしていた詐欺師だ。たくさんの貴族をだましたからこそ死刑となった。その中にはヴァルターシュ伯爵もいる」
へえ。ということはアニキスはヴァルターシュ伯を知っているということか。
「ヴァルターシュ伯爵には確かに兄弟がいる。だがあれはしくじっている。顔が違うんだよ」
「顔?」
「ヴァルターシュ伯爵の息子は双子だって言えばわかるか?」
「あー」
双子なら顔がほとんど一緒だからわかんないだろう。
「弟の唇の下にはちっちゃいほくろがあるんだ。写真でも見分けつくかつかないかくらいのほくろがな。それがなかった」
「兄のほうに変装してるってこと?」
「ああ。名前は弟だが顔は兄だ。兄が成り代わってる……ってことも考えてはいたが兄は弟を大事にしているし成り代わって囚人を脱獄させるなんてことは考えにくい。それに、兄は魔王城の近くで三年間勉強してくると言っていたし帰ってきてはない」
「もしかしてアニキスって最近まで捕まってなかった?」
「二年前に捕まったんだよ。最後の標的がヴァルターシュ伯爵だったんだ」
なるほど。ヴァルターシュ伯爵のときにへまして捕まったのか。
「ま、俺の話はともかくあいつは十中八九ニセモンだろう。早く追わないとな」
その割にはのんびりしてるじゃないですかアニキス。




