王は英雄を望む ①
王冠をかぶった男が剣を持って兵士を切っていた。
血気盛んな王様だ。私は王の前に出て剣を受け止める。
「ほう? 俺様の剣を受け止めるとはちったぁ強そうなのが来たじゃねえか」
「強そうじゃなくて強いからね私」
王は身を引く。
一歩距離を取り剣を構えて私に向かって不敵に笑う。
「一つ聞きたいんだけど誰が戦争を起こさせたの? あの力は何?」
「話してやるものか。もし知りたければ俺を討ち取ることだ」
すると、王は素早く剣をふるう。
太刀筋が見えない。居合……に近いか。素早く切りつける。それも結構高精度に急所を狙ってきている。
私は一太刀を躱し、王を爪で切り裂いた。
「なにっ……!」
「やっぱ私の攻撃力やべぇ~」
王は胸を押さえる。
少し傷ができていた。傷ができるだけで済むってなんて頑丈な……と思っていたが審美眼で見てみるとどうやら防御魔法をかけられているようだった。
ダメージは割と大きいが死ぬほどではない。防御魔法のせいでダメージが4分の1になってしまったようだった。だがしかし、それでも相手の4分の1くらいは体力が削れているところを見るに私の攻撃力のやばさがうかがえる。
「そら!」
私は怯んだ王をまた切り付けた。
王は私の腕をガシッとつかみ私を睨んでくる。私は捕まれることは想定していたので、王の股間を蹴り上げた。
「アンタ強いんだろ! あっけなく終わってくれちゃこまるよ!」
「この俺が負けるわけがない!」
王はそう言って、膝をつく。
威勢はいいが体は正直だった。傷が深い。普通は致命傷になりえる傷だ。だがしかし、王の様子がおかしい。
王は突然頭を押さえだす。
「俺は、オレハオレハオレハオレハオレハ……」
先ほどの副団長のようにそう悶えていた。
すると、またもやが出る。黒い靄は副団長よりも何倍も多く私の周りを浮遊していた。そしてその黒いもやが王に集まっていく。
王は黒い靄を取り込んだかと思うと。
「うがああああああああ!!」
胸を押さえ、叫び声をあげる。
そして、服が破れた。むくむくと巨大化していく。肌の色が赤色に変わっていく。王の頭からは王冠がずり落ち角が生えていた。
剣もでかくなり、王は白い眼を向いている。
『この俺様が負けるわけがないんだ! すべてはバルムーントのために……。帝国に味方する者、全員死ぬ未来しか与えぬ』
「……化け物」
王は化け物となった。
『化け物……。俺は違う。俺は国を治める国王様だ……。国王にしてこの大陸を支配する支配者……。帝国など邪魔だ……! 帝都一つも守れない王などに大陸の支配者が務まるものか……!』
「いや、あの皇帝は大陸の支配とか考えてないと思うけど。やっぱあんた、どこかあの監獄の脱獄囚と同じ匂いがする。犯罪者の匂いだ」
『犯罪者にはならぬ。俺様は大陸を支配する英雄となる』
行き過ぎた支配欲……。
この大陸を支配したいという目的のために侵攻してきたのか。救えない。人間がそう大逸れたことを考えるなよ。限界というものは存在するんだぞ。
『貴様とは話が合わんようだ。だからコロス!』
「殺してみなよ。私はそんな愚王に殺されるようなやわな鉄砲玉じゃないぜ」
やるしかない。




