逃亡男、死ぬ
とりあえずリアを帰し、私はその逃げてきた男……名前はヴォルザークというらしい。
ヴォルザークと一緒に帝都の拠点に戻ろうとするが、門で止まってしまった。
「おい、その竜はなんだミーミル様」
「威圧かけるのか敬うのかどっちかにしなよ……」
「いや、うーん。こればかりは……。ミーミル様の実力は敬うべきなのだがいかにも怪しいものを連れててはな」
だから顔も中途半端なんじゃないの?とは言わないでおく。
「うーん。なんて説明すべきか」
「あ、あの。俺はその、バルムーント王国からきた。逃げてきた」
「ふむ、亡命……。竜を連れてるとなると竜騎士か貴族か。わかった。とりあえず大臣に……」
「騎士団でもいい、俺をかくまってくれ。俺は王国に命を狙われてるんだ!」
と、ヴォルザークは騎士に縋りつく。
なぜ殺されそうになってるかは聞いた。ま、当たり前だろう。バルムーント王国は竜騎士と言って竜を操り戦う。ドラゴンは強く、それを操る技術もあるとならば強国として名をはせるのは普通、なのだが。この大陸はほかの大陸と関りがない、かつ帝国がそれ以上に強すぎるからそこまで有名ではないらしい。
ドラゴンを操る国より強いとか帝国ってすごすぎない?
で、ドラゴンを操るだけあってドラゴンに関連する情報は国家機密となっている。調竜師として仕えてたヴォルザークはそりゃ狙われて当たり前ということ。
歩く国家機密みたいなもんだし。
「そりゃ竜を操るのは国家機密だから狙われて当然か。わかった。とりあえず……。一介の隊員である私には決めかねないので団長を呼んできます」
「逃げた」
で、どういうわけか流れで帝王とまた謁見することになった。
帝王様が玉座に座り、ヴォルザークを見る。
「なるほど……。なるほど。匿ってくれ、と」
「俺には帝国にしかすがれないのです。下働きでもなんでもいたします。国の情報でもなんでも洗いざらい話します。どうか……お願いします」
「わかった、とはいいたいところだが。お主をどこまで信じていいものか判断に決めかねる。ミーミル様、どう思うだろうか」
「え、私?」
この流れで私に振られんの?
「もちろん一意見として聞きたいだけなのだ。こればかりは独断で決めるわけにもいかんしな。国としてもこの男がどこまで信じていいのかはわからん。バルムーント王国の情報も確かに欲しいが……」
まぁ、国を運営する身にとっては真偽をはっきりさせるのは大事か。聞いた情報を鵜呑みにしていたら本当は国を裏切ってなかった場合こちらの行動が筒抜けというか、操作されてる可能性があるしなぁ。
難しいよなぁ、統治って。
「まぁ、私的には信じてもいいんじゃないですかね?」
「ふむ。わかった。まあ、匿うことはいいだろう。だがしばらく軟禁状態になる。それでもいいのか?」
「構いません。助けていただけるのなら」
「監視を24時間つける。もちろん排泄にもだ。また、勝手に移動することは許さぬ。そのうえで情報だけを吐いてもらう。バルムーント王国との紛争が終わるまではこの状態だ。それでもよいか?」
「もちろんです。命を助けていただけるのなら何年でも……」
言葉に詰まった様子もない。予想はしていたのかもしれない。
「ただ、一つだけお願いがあります」
「申してみよ」
「ドラゴンは殺さないでください」
「そんなことか。無暗に生物を殺める趣味はない。ドラゴンには罪などないからな」
「よかったです……」
「では、とりあえず連れていけ。丁重にな。痛めつけることはこの私が許さん。優しくしろともいわないが、倫理観を持って接するように。人は倫理観をなくすとすぐに怪物となるからな」
「はっ」
そのときだった。
男の目から涙があふれでていた。
「なぜ泣く?」
「やっと、助かるんだと思いまして……」
「そうか。しばらくは生きてるかどうかも怪しくはなるだろうが」
「なぜ、です? やはり……」
「人に制限されて閉じ込められてるというのは生きてるとは言わん。これを受け入れたのは主だ。しばらくは死んだ、ということにする。死体も確認済みだ」
ああ、まぁ、秘匿するならそのほうが手っ取り早いか。
意図も何となくわかったようで安心したように笑う。
「やっぱ、帝国は王国に比べて十倍くらいいい国だ」
「その程度か?」
「すいません。言葉の綾です。何百倍も、です」
「よいよい。ま、連れていけ」
騎士たちにやさしく連れていかれるヴォルザーク。泣いてるのか笑ってるのかよくわからない顔だった。
「……私も行きますね。やることありますし」
「ああ。手間を取らせてしまい申し訳ない。近いうちに戦争に発展するかもしれん。その時は……手助けを頼めるか?」
「ま、わかりましたよ」
前線で暴れればいいんですよね。




