空回りして乱反射して ①
何で悩んでいるのか気になるが、ま、後で直接聞きだせばいいか……。
そう思っていた矢先だった。メイドが部屋に突然入ってきたかと思うと。
「ノア様が来訪なされました!」
という声が来た。
それを聞いたシャーロットは少し表情を暗くしたかと思うとまた笑顔に切り替え、わかりましたとメイドに告げ私に失礼と言って席を立つ。
ああ、なるほど悩みの種か。
「不安だったら私もついてくよ」
「……いえ、不安などでは」
「表情が物語ってるぞ」
私がそう言うと観念したのか諦めの笑みを浮かべる。
「私の感情の起伏にも気づくとはよく周りを見てますね」
「ま、これは日本に住んだ弊害というべきだろうね」
周りがどんな日本語を使ってるかを調べているうちに周りの変化に気づくようになっただけ。でもまぁ、このスキルはなくていいわけはない。
「どんな関係なの? その、ノアっていうやつとは」
「簡潔に言うと私の婚約者です」
なるほど。婚約者。やっぱ上流階級は婚約者がいるのが普通なのかねぇ。恋愛結婚などではなく親に決められた結婚……。私は嫌だね。親が敷いたレールとか他人が敷いたレールの上は乗りたくない。決められてるなんてつまらない。
「ノア様は……私のことを嫌ってるのですよ」
「婚約者なのに?」
「はい。私がもっと見た目麗しい令嬢だったら好かれてたかもしれませんけどね」
自虐的に笑う彼女。
ノアってやつは相当面食いらしい。私から見たらシャーロットは可愛いと思うが。名前の響きも見た目も。
「じゃ、シャーロットもノアのことは嫌いなの?」
「私は……嫌いというわけではないんです」
じゃあ婚約者に嫌われて悲しいということか。
「ノアは学園でも力があって……。学園内免責者の一人にも選ばれてるんです」
「あー、エレノアが入ってる」
「はい。その権力を持った婚約者に嫌われてるってことで学園でも私は嫌われてるんです」
なるほどねぇ。権力者が嫌いって言ってたら嫌うわな。好きって言ってにらまれたくないというのもあるだろうが……。
だが気になるのは何で嫌いにもかかわらず婚約破棄をしないのか。それが気がかりだが……。
そう話していると玄関ホールについた。
「お、遅いぞシャーロット」
と、表情一つ動かさずに言う。
「申し訳ございません。友人と遊んでいたものですから」
「友人というのはその隣のやつか?」
と私のほうを見る。
「山田花子です」
「……日本人なのか?」
「冗談です。アテナ・アゼリア。イギリス人ですよ」
私がそう微笑むとぴくりと眉を動かした。
「嘘をつく女は嫌いだ」
「早速嫌われちゃったねぇ」
「わ、わらうな!」
堅苦しい雰囲気は嫌いだからちょっとしたジョークなんだけど。そのジョークはお気に召さないらしい。なんてわがままな奴。
私はノアのほうを見る。ノアはずっとシャーロットのほうを見ていた。
シャーロットは中に招くとノアは不機嫌そうについていく。
「おっと」
と、ノアが突然こけた。足をもつらせて壁に手をついて転ぶのは免れたようだ。
きちっとしてそうな割にこけるんだなと思いつつ、私はいたずらしてやろうとノアの前に出ると。
なんだか目をつむっていた。
……なんで? 目をつむって歩くなんてそりゃ危ないけど何で目をつむる必要があるんだろう。
私がそう思っていると。
「私の部屋につきました。ノア様、ぜひ」
「いや、はいらん。いつものように応接間でいい」
「ん?」
「かしこまりました」
と、つらそうな笑みを浮かべる彼女。まだ目をつむったままのノア。
「ちょっとシャーロット。ノアを借りていい?」
「えっ」
「借りるよーっと。ほら、こっちこい」
私はノアの腕を引っ張る。
ノアはおいとわめきながら私はシャーロットとの距離を離す。私の見立てが間違いなければなんだが……。
なんだかノアはそわそわしている。
やはりか。
「お前、シャーロットのこと好きだな?」




