蕎麦を食べます
午後8時。
みんなぐったりとしていた。英語を教えたはいいが脳がオーバーヒートしたみたい。
ぐでーっとテーブルに突っ伏している。
「お腹空いたな」
「食べに行く?」
「そうだね。とりあえず近くの蕎麦屋行こう」
私は男どもを起こし、立ち上がらせる。
近くの蕎麦屋に訪れた。
「たいしょー! 来たぞー」
「お、アテナちゃん。らっしゃい」
結構よく来るんで大将とはちょっとした知り合いの仲だ。
「友達も連れてきた。席はどこでもいいの?」
「ああ、いいぞ」
私は席に座る。
メニュー表を木戸くんは手に取りメニューを見始めた。私はいつも頼むメニューがあるからそのメニューにする。
「俺はとりあえず月見にするか」
「メニューみーせて」
「おう」
三日月がメニュー表を手に取る。横で灘も覗き込んでいた。
三日月はメニュー表を見てうーんと唸る。灘はすぐ決めたようだ。
「私は普通のざるそばにするぞ」
「とろろそばかな…」
「僕も見せて」
三日月は雪斗にメニュー表を渡し、メニューを見てすぐに決めたようだ。
「僕はかけそばにするよ」
「おっけー。たいしょー! 注文!」
「あいよー」
「かけにとろろに月見にざるに天ざる!」
「かけ、とろろ、月見、ざる、天ざるな。わかった!」
私はいつも天ざるそばを頼むのだ。
海老天が美味い。野菜の天ぷらも美味い。日本といえば天ぷらだ。
ここの天ぷらは美味いからな…。
「んで質問。とろろってなに? 頼んだことないけど」
「知らないの?」
「うん」
とろろは何か調べたこともないからな。
気になってはいたけどどんな見た目とか知らない。まだまだ日本のこと全部知ってるわけではないしな。
「とろろは長芋、山芋をすり下ろしたやつだよ。ネバネバしてるんだ」
「納豆の仲間か…」
「納豆とはちょっと違うぞ」
そうなの?
納豆もネバネバしてるし同じじゃないの?
「僕はとろろってそんな好きじゃないな…」
「私もだ。野菜自体そんな好きじゃないぞ」
「八百屋の娘なのに野菜きらいって…」
「俺は結構食べるぞ。とろろの中に生卵を入れて醤油垂らして食べると美味いんだ」
ほえー。
私たちが話していると先に三日月のがやってきた。
三日月が頼んだ蕎麦の上には白いスライムみたいなものがたくさん乗っかっている。
「Oh…It looks slimy…」
「なんて?」
これを食べるのか?
なんていうか、うーん。色白い…。豆腐の仲間か? いや、でも柔らかそうだしな。
「いただきまーす」
「な、なあとろろ一口だけいい? 気になる」
「ん、いいよ」
というので箸でとろろを持ち上げてみる。うまく持ち上がらない。
私は器に顔を近づけとろろを食べる。
んー…。
「美味いには美味いけど…頼むほどじゃないな」
「なんだアテナちゃんとろろ嫌いか?」
「初めて食べたけど嫌いかも」
「そうかいそうかい。とろろは疲労回復とかにいいんだけどなあ」
大将はそう笑いながらかけそばを持ってきた。
「とろろ美味しいんだけどねえ」
と、ずるずる音を立てて蕎麦を食べていた。
「やっぱみんな蕎麦食べる時って音出すの?」
「うーん、蕎麦とかはたてるよね」
「俺もたてるな。それがどうかしたか?」
「うーん…。音立てて食べた方がいいのかなって。恥ずかしくないのかな」
「どういうことだ?」
「そうか…。イギリスは音を立てて食べるのはマナー違反だもんね」
柊くんがそう説明した。よくわかったな。
そうなんだよ。音を立てて食べるのはマナー違反で小さい頃からそう教えられてきた。
だからこそなんか少しまだ嫌悪感が…。
「これも文化の違いか。蕎麦とかラーメンは音を立てて食べないと失礼みたいなものだと思ってるな俺は」
「ていうか思い切り啜るから音は出ちゃうよねえ」
そういうものか…。
「聞くのは嫌じゃないけどやるとなると少し…」
「ほえー。イギリスって結構厳しいんだねー」
「まあ、紳士淑女の国と言われてるから作法には厳しいのかもな」
作法はけっこー厳しいと思います。
「ほらよ、天ざる」
「おー、大将ありが…って天ぷら多くない?」
「いい山菜が手に入ったからおまけしておいたぞ。ゼンマイとか美味いぞ」
「ほえー。サンキュー」
この大将は結構優しい。




