禁忌の魔術
私はもらったナイフをしまい、拠点に戻る。
拠点では昨日の神父が座っていた。
「ミーミル。神父」
「カムイ」
「昨日は申し訳ございませんでした。それでどうでしょうか」
「あーあの子ね」
私はあの子のことを話す。
「人造人間…。本当なのですか?」
「ほんとだけど…いけないの?」
「人造人間は禁忌とされている魔術です! ああ、嘆かわしい。アポカリズム教はそのようなことまで…。仕えている神は違えど神に仕えるものとして嘆かわしく思います…」
わかる。
だがしかし人造人間は禁忌なのか。アーティには罪はないとはいえ処罰はどうするのだろうか。
「人造人間はどうするの?」
「生まれてきてしまって殺すのも可哀想です。私が引き取りましょう」
「あの子暴れたら多分手を付けられなくなるよ。ホントに引き取れる?」
もし癇癪でも起こしたらカムイは止められるのだろうか。私ですらちょっと疲れるぐらいには強い。
人造人間だからか筋肉や皮膚の硬さが人間より上なのだ。だからこそ止められる人間は少ない。
「私としてはあのまま放置していたほうがいいと思う。あの子自体あの教会から出るような意思はなさそうだし」
「そうですね。そうしておきましょう」
「決まったね。で、聞きたいんだけど…」
私はカムイの目の前に座る。
「人造人間の作り方ってわかる?」
「一応知ってはおりますが…。まさか作るつもりで?」
「まさか。一応だよ」
「ならいいのですが…。まず、人造人間がなぜ禁忌なのか。その理由からです」
カムイはテーブルに手をついて話し始める。
「人造人間の材料は…大量の人間の血と心臓、そして一人の母体が必要とされてるのです」
「母体?」
「人間は母親から生まれてくるでしょう? 人造人間も同じなのです。人造人間も人間の赤ちゃんのように生まれ、ある程度育ったら成長が止まるようになっています」
へぇ。
てっきり媒体液の中で生まれると思ったけどそうなのか。となると一人の女性が必要ということか…。無理やり産ませるということか。
「大量の人間の血は必ず生き血でないとだめなのです。心臓をすりつぶし、母体の腹に塗りたくり、血を飲ませる。そうすると産まれる準備は完了します。そして、魔術をかけると母体のおなかの中に人造人間が出来上がる、というわけです」
なかなかえげつないな。
「人造人間は人間の赤ちゃんと同様に数か月後に出産します。ただ、人造人間は生まれる際に母親が持つすべての養分を吸収してしまい、生まれたと同時に母体は死亡します」
「へぇ…」
「禁忌とされてるのはその非人道的な素材と方法、そして命を創り出すという行為のせいで禁忌なのです。それは全世界共通の認識」
ま、そりゃそうだろうな。
命を創り出すということは命の冒涜に過ぎない。私たちが命を創り出していいはずがない。命を授けるのはあくまで神だ。
「…何か聞いてたら吐き気してくるわ…」
「…ここで話した私が軽率でした。申し訳ございません」
「いいよ。話してって言ったの私だし」
「きっと幽霊は何かの拍子にあの階段から解放され出てきて礼拝堂を荒らしまわっていたのでしょう。犠牲になった人々の無念があそこには詰まっていたんです」
だろうな。犠牲になった人の恨みつらみはもっともだ。殺した人間を恨んでも仕方のない気はするな。
「ヴァルハラン教はそんなことしてないよね?」
「まさか! そんなことはしておりませぬ。命の尊さや重さは一番先に習う出来事。命の創造や蘇生はできませぬ。まあ、この世界には死んでも特定の場所で生き返るような人がいるそうですが…」
お、それは多分プレイヤーのことだな。
「その生き返るような人たちについてはどう思ってる?」
「神に試練を課せられた人と我々は考えております。どうとも思っておりません」
「そうなんだ」
ならプレイヤーは神父たちに恨まれたりとかそんなのはないな。
「話はいいでしょう。今日はお礼を渡しに来たのです。依頼料である6千ギンと、私の加護を持たせたお札…。もし幽霊やアンデッドに出会った場合に張るとよいでしょう」
といってカムイは席を立ち、ぺこりと深くお辞儀をして出ていった。




